野菜の農薬は、洗うより先に「どこに付いているか」で決まります

野菜の残留農薬がどこに付いているかを示したアイキャッチ画像 健康

「野菜は重曹で洗うといい」

そう聞いたことはないでしょうか。私も、そういうものだと思っていました。

ところが、実際に市販の野菜を買ってきて測った公的な記録を読むと、話が違いました。りんごは重曹で洗っても、数字が有意には動いていません。

この記事では、秋田県の研究機関が市販品5種類を実際に測った記録をもとに、どこに農薬が付いていて、どの操作で数字が動いたかを整理します。洗い方を1つ覚えるより、付いている場所を知るほうが早い、という話です。

ほうれんそう・ミニトマト・いちご・りんご・玄米のどこに残留農薬が偏っているかを部位ごとに示した図|残留農薬 どこに付いている

残留農薬の検査は、洗う前・皮をむく前の状態でやっています

まず前提から。ここを知らないと、どの数字も読み違えます。

この研究は、市販品5種類を買ってきて、GC-MS/MS測定で275成分、LC-MS/MS測定で159成分(うち重複34成分)を対象に測ったものです。

報告書の書き出しに、こうあります。農産物中の残留農薬量は、基本的に剥皮や洗浄等の処理をせずに検査した結果が用いられる、と。

つまり「この野菜から農薬が◯◯検出された」という数字は、洗っていない・皮もむいていない状態のものです。私たちが実際に口に入れる状態ではありません。

だからこの研究は、そこを埋めるために行われています。多くの家庭では非可食部位を取り、洗い、加熱してから食べるので、調理後の残留実態のほうがヒトの摂取状況に即する、というのが著者らの問題意識です。

→ 検出量の報道を見たら、まず「これは調理前の数字だ」と置いてください。それだけで読み方が変わります。

ミニトマトといちごの農薬は、ほぼ全部ヘタにありました

ここがいちばん驚いたところです。

ミニトマトからは15農薬が検出されました。そのうち15農薬すべてで、ヘタの分布比が96.8〜100.0%です。可食部から検出されたのは8農薬でした。

いちごも同じでした。検出された7農薬で、ヘタの分布比が89.1〜98.7%

理由も書かれています。どちらも収穫前日まで使える農薬が多く、葉や茎を中心に散布されるため、ヘタに偏ったと考えられる、と。

洗い方を工夫するより、ヘタを取るほうが桁違いに大きく動く、ということになります。

→ ミニトマトといちごは、ヘタを取ってから洗ってください。順番が逆だと、ヘタから可食部に移す可能性が残ります。

ミニトマトといちごの残留農薬がヘタに96.8から100パーセント集中していることを示した図|ミニトマト いちご ヘタ 農薬

りんごで農薬が多いのは皮ではなく、上と下のくぼみでした

りんごは6つの部位に分けて測られています。果梗(軸)、基部、果皮、果肉、芯、花落ち。

「皮に農薬が多い」と思っていましたが、結果は違いました。

果皮の分布比は、最も高いテブフェンピラドで15.0%。次がボスカリドの7.5%です。あとは3農薬が5%台、4農薬が3%以下でした。

いちばん多かったのは果梗で、7農薬が53.7〜81.9%。次いで花落ち(ガク側のくぼみ)で、4農薬が39.2〜100.0%でした。

報告書はこう書いています。農薬がりんごの上下のくぼみに偏在していることが示された、と。

そして果肉と芯は0.0〜1.1%。全体のおよそ100分の1以下です。

→ りんごは、軸とガクのくぼみを落とすのが、この記録では最も大きく出ていました。皮をむくかどうかは、そのあとの話です。

りんごの果梗・基部・果皮・果肉・芯・花落ちの6部位で残留農薬の分布比が大きく違うことを示した図|りんご 農薬 皮

ほうれんそうは、根元に集中していました

ほうれんそうからは7農薬が検出されています。

メタラキシル、アゾキシストロビン、ペルメトリンの3農薬は、下部(株の根元から2センチほど)の分布比が100.0%でした。上部からは出ていません。

播種のときに土に混ぜる農薬や、生育初期に根元へ散布する農薬だからだ、と説明されています。

一方でシアゾファミドは上部78.3%、イミダクロプリドは上部61.6%と、逆に葉のほうに多いものもありました。こちらは収穫間際まで使える農薬です。

つまり「葉物は葉を洗えばいい」でも「根元を切れば済む」でもありません。農薬によって居場所が違います

→ 根元は落とす。そのうえで葉も洗う。どちらか一方ではありません。

流水5秒では、数字が動きませんでした

ここから調理操作の話です。

ほうれんそうを流水で振り洗いした結果が出ています。

5秒間の洗浄では、シアゾファミドの残存率は100.0%。減っていません。30秒間にすると68.7%まで下がり、統計的にも有意な減少でした。

水に触れる時間を長くすることで、表面の農薬が水に移る、という説明です。

いちごも同じ方向でした。アゾキシストロビンが5秒で69.6%、30秒で60.9%です。

秒数を延ばすだけ、という単純な話なのですが、5秒と30秒でここまで差が出るとは思っていませんでした。

→ 洗う道具を増やす前に、まず時間を延ばしてください。無料でできて、数字が動いた唯一の操作がこれです。

ほうれんそうの流水洗浄が5秒では残存率100パーセント、30秒で68.7パーセントに下がったことを示した図|野菜 洗い方 時間

りんごは、流水でも重曹でも有意に減りませんでした

冒頭の話に戻ります。

この研究では、りんごに対して流水洗浄(5秒・30秒)と、重曹洗浄が行われています。重曹洗浄は、水2リットルに重曹50グラムを溶かしたpH9の重曹水で30秒もみ洗いし、そのあと1個ずつ流水で30秒洗う、という念の入れ方です。

結果は、有意に減少した農薬はみられなかったでした。流水も重曹も、です。

理由も書かれています。りんごの表面はブルームや脂肪酸などのりんご自身の分泌物で覆われていて、農薬がその分泌物に取り込まれているため、水に移らなかったと考えられる、と。

ネット上では重曹洗いがよく勧められています。ただ、少なくともりんごについて市販品を実測したこの記録では、差がつきませんでした。

念のため書いておくと、これはりんごでの結果です。すべての野菜で重曹が無意味だと証明されたわけではありません。

→ 重曹を買い足す前に、上のくぼみを落とすほうを先にやってください。順番の問題です。

りんごは流水洗浄でも重曹洗浄でも有意な減少が見られなかったことと、その理由がブルームなど表面の分泌物であることを示した図|りんご 重曹 洗う

いちばん数字が動いたのは「ゆでる」でした

洗うより、加熱のほうが大きく動いていました。

ほうれんそうを2分間ゆでた結果、シアゾファミドの残存率は31.3%、イミダクロプリドは22.8%。およそ7〜8割減っています。

炒めるでは3農薬でおよそ3割の減少でした。

いちごのジャム調理では6農薬すべてで有意に減り、残存率は45.7〜54.9%。りんごのジャム調理・フライパン焼き・乾燥でも、4農薬すべてで有意に減っていました。

洗って数割、ゆでて7割超。差ははっきりしています。

→ 下ゆでする料理なら、そこで最も大きく減っています。わざわざ洗い方を足す必要はありません

減っていたのは「分解」ではなく、空気中に飛んでいました

ここは意外でした。

調理中のゆで汁の温度は80〜90℃でした。その温度帯では壊れないはずの農薬が、減っています。

加熱で減ったのだから熱で壊れたのだろう、と思っていました。報告書の結論は違います。

有意に減少した農薬は比較的熱に安定なものが多く、減少の要因は加熱による分解ではなく、大気中への揮散によるものと推察された、と書かれています。

ゆで汁も調べられていて、ゆで汁に移った分だけでは減少分に足りない、という確認まで入っています。その温度帯では両農薬は安定である、というのが根拠です。

つまり、湯気と一緒に出ていっているという理解になります。

→ 「ゆで汁を捨てれば落ちる」という説明は、この記録では半分しか合っていません。捨てても、飛んでいるぶんは元から鍋にありません。

加熱で残留農薬が減る主な要因が熱分解ではなく大気中への揮散であることを、ゆで汁の測定結果とあわせて示した図|農薬 加熱 減る 理由

塊のまま焼くと、飛びませんでした

揮散だとすると、逆のことも起きます。

りんごの「オーブン焼き」は、丸ごと1個の焼きりんごを想定して、6つの片を球形に合わせ、下半分をアルミホイルで覆って200℃で30分焼いたものです。

結果は、キャプタン以外の3農薬の残存率が85.7〜94.1%。ほとんど減っていません。ジャム調理やフライパン焼きが同じ4農薬すべてで有意に減っていたのと対照的でした。

理由も書かれています。相対的に大きな固まりで熱が伝わりにくく、水分も飛びにくいため、揮散が進まなかったと考えられる、と。

同じ「加熱」でも、形と水分の逃げ道で結果が変わるということです。

→ 加熱すればいつでも減る、ではありません。数字が動いていたのは、水分が飛ぶ調理のほうでした。

玄米の農薬は9割がぬか。でも精米で減らないものがありました

お米も測られています。

玄米から検出された3農薬のうち、フサライドとフェリムゾンはおおむね9割がぬかに分布していました。精米が進むほど、米に残る濃度は下がっていきます。実際、精米後のフサライドの残存率は37.5%で、この試験のなかで最大の減少でした。

ところが、ジノテフランだけ違いました。各分づき米の間で濃度差がなく、精米してもほとんど変わっていません。分布比でみるとおよそ3割が内部に入っていました。浸透移行性が高い農薬だからです。

洗米は、おおむね1割減でした(残存率84.4〜91.7%)。研ぎ汁からも3農薬が確認されています。

「よく研げば落ちる」と言われますが、この記録では研ぐより精米のほうがずっと大きく動いていました。そして、中に入ったものはどちらでも減りません

→ お米で数字が動いていたのは研ぎ方ではなく、精米の度合いでした。

玄米の残留農薬のおよそ9割がぬかに分布する一方、ジノテフランは3割が内部にあり精米しても減らないことを示した図|玄米 農薬 精米

そもそも検出量は、基準値の0.26〜14.2%でした

ここまで「減った・減らない」の話をしてきました。量の話は別に置きます。

この研究で調理前の試料から検出された農薬の、基準値に対する比率が出ています。

試験品 対基準値比
ほうれんそう 0.27〜5.0%
ミニトマト 1.4〜14.2%
いちご 0.46〜9.0%
りんご 0.26〜2.9%
玄米 3.2〜6.0%

そして報告書には、調査で使用した試験品において、基準値を超えて残留する農薬はなかったと明記されています。

国の調査も別にあります。厚生労働省の「食品中の残留農薬等の一日摂取量調査」です。令和4年度は48農薬等を調べ、対ADI比は0.000〜2.954%でした。ADIは、一生涯毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される量のことです。

ここで1つ、この記事の最初の話とつながります。一日摂取量調査の試料は「そのままの状態あるいは必要に応じて調理した後」に分析されています。残留基準の検査は洗う前、摂取量の調査は調理後。目的が違うので、測り方も違います

→ 2つの数字を並べるときは、どちらの状態で測ったものかを確認してください。同じ「農薬の数字」でも別物です。

残留基準の検査は調理前、一日摂取量調査は調理後で測っており目的が違うことを対比した図|残留農薬 基準値 摂取量

濃度が偏っていても、量では逆転することがあります

最後に、著者ら自身が付けている但し書きを書いておきます。都合のいいところだけ引くのは、この記事の趣旨に反するので。

ミニトマトの平均重量は、ヘタが0.085g、可食部が14gでした。重量比にすると0.6%と99.4%です。いちごもヘタ0.48gに対し可食部21gで、2.2%と97.8%でした。

ヘタや果梗などの非可食部位は、濃度で見ると圧倒的に高く出ます。ただし報告書はこう続けます。重量比に基づき存在量を求めると、相対的に可食部位の重量比が高いため、検出農薬によっては非可食部位よりも多く存在する場合があり、留意が必要である、と。

ヘタは小さく、実は大きい。濃度が100倍でも、重さが1000分の1なら、総量では実のほうが多いことがあります。

濃度と存在量は別の話です。この記事の「ヘタに96.8〜100%」も、濃度の分布比の話だと読んでください。

→ 数字を人に伝えるときは「濃度の話です」と一言添えてください。それだけで正確になります。

今日やること

覚えることを増やすより、順番を変えるほうが早いです。

# やること なぜ
1 ミニトマトといちごは、ヘタを取ってから洗う 濃度の96.8〜100%がヘタにありました
2 りんごは、軸とガクのくぼみを落とす 皮より、上下のくぼみのほうが高く出ています
3 ほうれんそうは根元を落とし、そのうえで葉も洗う 農薬によって居場所が逆でした
4 洗う道具を足す前に、まず秒数を延ばす 5秒では動かず、30秒で動きました
5 下ゆでする料理なら、それで足りていると考える 洗浄より大きく減っていました

残留農薬対策として今日からできる5つの手順を、ヘタを取ることから下ゆでまで順に並べた図|野菜 農薬 落とし方

念のため

・ここに挙げたのは、市販品5種類(ほうれんそう・ミニトマト・いちご・りんご・玄米)から実際に検出された農薬についての測定結果です。すべての野菜・すべての農薬に当てはまる話ではありません

・この記事は農薬の安全性を主張するものでも、危険性を主張するものでもありません。測られた数字がどう動いたかを整理したものです

・食品の安全に関する不安がある場合は、お住まいの自治体の消費生活センターや保健所にご相談ください

よくある質問

Q1. 結局、いちばん数字が動くのはどれですか?

この記録のなかで最も数字が動いたのは、非可食部位(ヘタ・果梗・花落ち・根元)を取り除くことと、ゆでることでした。洗浄は動くものもありましたが、幅は小さめです。

Q2. 重曹で洗うのは意味がないのですか?

りんごでは、流水洗浄も重曹洗浄も有意な減少がみられませんでした。りんご表面の分泌物に農薬が取り込まれているためと説明されています。ほかの野菜での結果はこの研究に含まれていないので、無意味だと一般化はできません。

Q3. 洗う時間はどれくらいがいいですか?

ほうれんそうでは5秒で残存率100.0%、30秒で68.7%でした。少なくともこの記録では、5秒と30秒に差がありました。

Q4. ゆで汁は捨てたほうがいいですか?

ゆで汁にも農薬は移っていました。ただし報告書は、ゆで汁への移行分だけでは減少分に足りず、主な要因は大気中への揮散だと推察しています。捨てること自体を否定する話ではありませんが、それだけで説明はつきません。

Q5. 皮をむけば安心ですか?

りんごでは、果皮の分布比は最大でも15.0%で、多くは3%以下でした。むしろ果梗や花落ちのほうが高く出ています。皮だけを問題にすると、実際の偏りとずれます。

Q6. お米はよく研いだほうがいいですか?

洗米での減少はおおむね1割でした。精米のほうが大きく、フサライドは残存率37.5%まで下がっています。ただしジノテフランのように内部に入っているものは、どちらでも減っていませんでした。

Q7. 有機野菜なら農薬は使われていないのですか?

有機JAS規格でも使用が認められている農薬があります。この点は「日本は農薬が世界一」を184か国の数字で数えたら、29位でしたで、使用量の国際比較とあわせて整理しています。

Q8. 表示に出てこない物質の話も知りたいです。

同じ「表示や検査に出る数字と、実際の状態のずれ」という型で、原材料表示に書かれない添加物があるをまとめています。

Q9. 検査結果の読み方そのものに興味があります。

水道水の例になりますが、水道水の「不検出」は、ゼロという意味ではありませんで、検出限界と不検出の関係を整理しています。

あわせて読みたい

ご利用にあたっての注意

本記事は残留農薬の分布と調理による変化について、公的資料と研究報告をもとに整理した一般的な情報提供です。特定の食品や農薬について、安全性・危険性を主張するものではありません。紹介した測定結果は市販品5種類から検出された農薬に限られ、すべての農産物に一般化できるものではありません。食品の安全について不安がある場合は、お住まいの自治体の消費生活センター等にご相談ください。

信頼できる公的情報

この記事を書いた人

てびき

てびき
学習塾を営む二児の親/健康・栄養の情報を発信
    • コロナ以前から仕事のなかで健康と栄養の知識を学び続けてきました
    • 子どもの食育に取り組み、塾では大人にも栄養の話をしています
    • 自身のうつの経験から栄養に行き着き、ダイエットも実践中
    • 医療系の国家資格は持っていません。だから出典を明示して書いています

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免責:本記事は情報提供を目的としたもので、特定の食品の安全性を保証するものではありません。

最終更新: 2026年8月17日

更新履歴

    • 2026-08-17 初版公開

参考にした資料

  • 秋田県健康環境センター年報 第18号 2022「食品中の残留農薬の分析精度向上と調理による変化に関する研究(令和3〜5年度)農産物中の残留農薬の部位別分布及び調理操作による変化について」
  • 厚生労働省「令和4年度 食品中の残留農薬等の一日摂取量調査結果」
  • 消費者庁「食品中の残留農薬等」

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