「日本は農薬の使用量が世界一」
何度も聞いたことがあります。私も、なんとなくそうなんだろうと思っていました。
でも、そう言うからには元になった表があるはずです。探して、自分で並べ替えてみました。
国連食糧農業機関(FAO)が各国の農薬使用量を集めています。耕地1ヘクタールあたり何キロ使ったか、という形で184か国分。2023年の数字です。
上から順に並べて、日本を探しました。
29位でした。

1位ではありませんでした。それどころか、上に28か国あります。
この記事は「農薬は安全です」とも「農薬は危険です」とも言いません。言えるのは、よく引用される順位が、元の表とずれているということだけです。数えた結果をそのまま書きます。
日本は10.61kg、1位のスリナムは38.77kg
耕地1ヘクタールあたりで見ると、日本は10.61kg。1位のスリナムは38.77kgで、3倍以上あります。
日本の前後はこうなっています。
| 順位 | 国 | kg/ha |
|---|---|---|
| 1 | スリナム | 38.77 |
| 3 | カタール | 35.11 |
| 21 | ベトナム | 13.90 |
| 22 | 台湾 | 13.54 |
| 23 | 韓国 | 13.49 |
| 25 | ブラジル | 12.63 |
| 29 | 日本 | 10.61 |
| 78 | アメリカ | 2.78 |
| 90 | 中国 | 1.71 |
たしかに欧米より多いです。フランスは65位(3.65kg)、ドイツは69位(3.41kg)ですから、日本はその3倍あります。
「多いほう」は本当です。「世界一」は違います。
→ この2つは分けて覚えておくと、次に同じ話を聞いたときに確かめられます。
日本より上の28か国は、ほとんどが島国と都市国家
上位を見ていて、知らない国名が続くことに気づきました。
スリナム、アンティグア・バーブーダ、カタール、ジブチ、セントルシア、ニューカレドニア、トリニダード・トバゴ、モルディブ。10位はアンドラです。
上位20か国のうち、15か国が島国か、耕地がごく狭い国でした。

理由は分母にあります。「1ヘクタールあたり」は、使った量を耕地面積で割った数字です。耕地がごく狭い国は、割る数が小さいので、少し使っただけで数字が跳ね上がります。
モルディブやナウルのような国は、耕地そのものがごくわずかしかありません。そこに農園がいくつかあれば、それだけで順位の上のほうに乗ります。
→ 「面積あたり」で並べた表を見るときは、まず上位に極端に小さい国が混じっていないかを見る。混じっていたら、その表は国の規模を比べる用途には向いていません。
日本の使用量は、2000年から4割減っている
同じFAOのデータには、1990年からの推移も入っています。日本の数字を年ごとに並べました。
| 年 | kg/ha |
|---|---|
| 1990 | 15.22 |
| 1995 | 15.84 |
| 2000 | 16.53 |
| 2005 | 13.60 |
| 2010 | 12.10 |
| 2015 | 12.05 |
| 2020 | 11.18 |
| 2023 | 10.61 |

ピークは2000年の16.53kg。2023年は10.61kgです。約36%、4割近く減っています。
「農薬の使用量が増え続けている」という話も聞きますが、日本については当たりません。減り続けています。
→ 数字を見たら年を確かめる。20年前の日本の数字なら、いまより5割以上多い数字が出てきます。古い数字が引用され続けている可能性があります。
中国は日本の6分の1という数字になる。ここは額面通りに受け取れない
さきほどの表で、いちばん引っかかったのがここです。
中国は1.71kg/haで90位。日本の6分の1です。
正直に書きます。私はこの数字を、そのまま「中国のほうが農薬を使っていない」とは読みません。
この表は、FAOが各国のデータを集約したものです。そして私には、その数字が国ごとに同じ精度で集められているのかを確かめる手立てがありませんでした。確かめられない以上、国どうしの細かい差を語る材料には使えません。

一方で、同じ国が同じ枠組みで報告し続けた推移なら、比べる相手が自分自身なので、集計の癖はある程度そろいます。
だから私は、この表からこう読みました。
- 言える: 日本は4割減った(縦に見る)
- 言えない: 中国は日本の6倍きれい(横に見る)
→ 同じ1枚の表でも、言えることと言えないことが分かれます。横(国どうし)より縦(時間)のほうが強い、と覚えておくと使えます。
「使う量」「基準の値」「実際に残る量」は、3つとも別の話
調べていて、いちばんの収穫がこれでした。
農薬の話には3つの数字が出てきます。私はずっと、これを1つのことだと思っていました。
| 何の数字か | 何を表すか |
|---|---|
| 使用量 | 畑でどれだけ使ったか |
| 残留基準値 | 食品にこれ以上残っていたら流通させない、という上限 |
| 実際の残留量 | 売られているものを測ったら、いくら残っていたか |

使用量が多いことは、残留量が多いことを意味しません。収穫までの日数が決まっていて、そこから先は使えないからです。
「日本は基準値が世界一ゆるい」という話も聞きますが、これは1つ目でも3つ目でもなく、2つ目の話です。しかも基準値は農薬ごと・作物ごとに何千通りもあり、国によって高いものも低いものもあります。ひとことで「ゆるい」「きびしい」とは言えません。
→ 誰かが農薬の数字を出してきたら、それが3つのうちどれなのかをまず確かめる。これだけで話がかなり整理されます。
実際に測った結果は、475検体すべてで基準値超過ゼロ
3つ目の「実際に残る量」は、国が毎年測っています。
農林水産省の「国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査」。令和5年度の結果はこうでした。
- 475検体の農産物を調べた
- のべ2,594種類の農薬と作物の組合せの残留状況を調べた
- 残留基準値を超えた検体は、ありませんでした
- 調査した475戸すべてで、農薬が適正に使われていたことが確認された(総使用回数5,442回)

これは「安全だから気にするな」という話ではありません。測っていて、結果が公開されているということです。
→ 国産の農産物について心配になったら、この調査の最新年度を見るのがいちばん早いです。毎年公表されています。
基準のない農薬は、一律0.01ppm。100トンに1グラム
もう1つ、仕組みとして知っておくと安心できることがあります。
2006年5月29日から、ポジティブリスト制度が動いています。
それまでは「基準が決まっている農薬」だけが規制対象でした。いまは逆です。基準が決まっていない農薬は、一律0.01ppmを超えたら流通できません。
0.01ppmがどれくらいかというと、100トンの農産物に1グラムです。

農薬がついた手で収穫物を触っただけでも検出されうる濃度です。つまり基準が決まっていない農薬は、事実上使えないという設計になっています。
→ 「新しい農薬が野放しになっている」という心配は、この制度がある以上、当てはまりません。むしろ基準がないほうが厳しいという、直感と逆の作りです。
無農薬りんごは収量28。でも散布を13回から7回にしても94
では農薬をやめたらどうなるのか。実際にやった記録があります。
リンゴの試験です。年13回散布する通常の栽培と、7回に減らした栽培と、無農薬とを1990年から2年間比べました。
慣行栽培の収量を100とすると、
- 減農薬(13回→7回): 94
- 無農薬: 28
無農薬区は「果実品質の低下が著しく、商品になるものは皆無であった」と書かれています。8月中旬に早期落葉が起き、9月中旬には一部で異常開花も観察されました。木そのものが弱ります。

私が「なるほど」と思ったのは、無農薬の28ではなく減農薬の94のほうです。
散布回数をほぼ半分にしても、収量は6%しか落ちていません。ゼロか100かではなく、その間に広い余地があるということです。日本の使用量が4割減ってきたのも、この余地を使ってきた結果だと考えると筋が通ります。
→ 「農薬を使うか使わないか」の二択で考えない。減らす余地は実際にあり、日本はもう20年以上それをやっているところです。
「無農薬」という表示は、2004年から使えない
最後に、売り場で役に立つ話を1つ。
「無農薬」という表示は、いまは使えません。
農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」が平成15年(2003年)5月に改正され、平成16年(2004年)4月から「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」の表示が禁止されました。いまは「特別栽培農産物」という名称に一本化されています。
理由がはっきり書かれています。生産者は「栽培中に農薬を使っていない」という意味で使っていたのに、消費者は「残留農薬が一切ない」という意味で受け取っていたから。優良誤認が起きやすいという判断です。

→ 売り場で「無農薬」と書いてあったら、それはガイドラインに沿っていない表示です。信頼度を測る材料として使えます。有機なら「有機JASマーク」、減らしているなら「特別栽培農産物」が正しい表示です。
今日からできること
調べてみて、やることは「怖がる/怖がらない」ではありませんでした。数字の素性を見ることでした。
| やること | なぜ |
|---|---|
| 「世界一」と聞いたら順位表を確かめる | 面積あたりで日本は184か国中29位 |
| その数字が何年のものか見る | 日本は2000年から4割減っている |
| 総量か面積あたりかを確かめる | 面積あたりの上位は小さな島国に偏る |
| 使用量・基準値・実際の残留を分ける | 3つとも別の数字。混ぜて語られやすい |
| 国産が気になったら国の残留調査を見る | 令和5年度は475検体で基準値超過ゼロ |
| 「無農薬」表示を信頼の材料にしない | 2004年から使えない表示。正しくは特別栽培農産物 |

念のため
- FAOのデータは各国から集約されたもので、国どうしの細かい優劣を決める用途には向きません
- 残留基準を下回っていることと、健康影響がゼロであることは同じ意味ではありません
- 食物アレルギーや持病がある方は、食生活を大きく変える前に主治医へ
てびきの場合
私はこの記事を書くまで、「日本は農薬世界一」を疑ったことがありませんでした。いろいろな人が言っているし、反論も見たことがなかったからです。
元の表は公開されていて、私でも開けるものでした。並べ替えたら29位でした。確かめられる場所にあったのに、確かめていなかったというほうが、私にはこたえました。
もう1つ、自分の理解が間違っていたのが「使用量・基準値・残留量」の区別です。私はこれを1つのことだと思っていました。だから「使用量が多い=食べるものに多く残っている」と、無意識につないでいました。つながっていませんでした。
そして、農薬を減らす話は「ゼロにするかどうか」だと思っていました。リンゴの試験で、散布を13回から7回にしても収量が94だったと知って、そこが変わりました。その間に広い余地があるという話だったわけです。
数字が29位だったからといって、農薬に関心を持つ必要がなくなるわけではありません。ただ、順位を間違えたまま心配するのは、心配の置き場所を間違えているとは思いました。
よくある質問
Q1. 結局、日本の農薬使用量は多いのですか少ないのですか
面積あたりでは多いほうです。184か国中29位、欧米の約3倍。ただし1位ではなく、上に28か国あります。「多いほう」は本当で、「世界一」は違います。
Q2. なぜ面積あたりで比べるのですか
国の広さが違うため、総量で比べると耕地の大きい国が上に来やすいからです。ただし面積あたりにも欠点があり、耕地がごく狭い国の数字が跳ね上がります。どちらの並べ方にも癖があります。
Q3. 中国のほうが少ないというのは本当ですか
FAOのデータではそうなっています(1.71kg/ha、90位)。ただしこのデータは各国の自己申告に基づくもので、この記事ではその数字をそのまま国の実態とは読んでいません。
Q4. 「日本は残留農薬の基準値が世界一ゆるい」と聞きました
基準値は農薬ごと・作物ごとに何千通りもあり、国によって高いものも低いものもあります。1つの数字で「世界一ゆるい」と言える形の数字ではありません。使用量の話とも別です。
Q5. 輸入品と国産、どちらが心配ですか
この記事で紹介した農林水産省の調査は国産が対象です。輸入品は厚生労働省の検疫所が、食品群や検査項目ごとに年間計画を立ててモニタリング検査をしています。違反の可能性が高いと判断された食品は、輸入のたびに全ロット検査を命じる仕組みです。どちらの結果も公表されているので、気になるほうを見るのが早いです。
なお、残留基準値そのものを決める仕事(食品衛生基準行政)は、令和6年4月1日に厚生労働省から消費者庁へ移りました。基準を作るのは消費者庁、輸入時に検査するのは厚生労働省、という分かれ方になっています。
Q6. 野菜は洗えば農薬は落ちますか
水洗いで落ちるものと落ちないものがあります。表面についたものは減りますが、内部に取り込まれたものは洗っても変わりません。皮に残りやすい薬剤もあるので、皮を使うかどうかで考えると整理しやすいです。
Q7. 有機農産物なら農薬は使われていないのですか
有機JAS規格でも使用が認められている農薬があります。「化学合成農薬を原則使わない」であって「農薬ゼロ」ではありません。
Q8. 農薬を全部やめたらどうなりますか
リンゴの試験では、無農薬区の収量は慣行栽培の28で、商品になるものは皆無でした。作物によって差は大きいですが、そのまま置き換えられる話ではありません。一方、散布を13回から7回に減らした区では収量94で、減らす余地はありました。
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本記事は農薬の使用量統計と残留農薬の制度について、公的資料と論文をもとに整理した一般的な情報提供です。特定の農産物や農薬の危険性を主張するものでも、安全性を保証するものでもありません。食物アレルギーのある方、持病のある方、妊娠中・授乳中の方は、食生活を大きく変える前に医師や管理栄養士など専門家にご相談ください。体調に気になる症状がある場合は医療機関を受診してください。
参考にした資料
- 国連食糧農業機関(FAO)「FAOSTAT: Pesticides Use」耕地面積あたり使用量(kg/ha)、2023年。データは Our World in Data 経由で取得し、184か国について筆者が並べ替えました
- 農林水産省「国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査の結果について(令和5年度)」
- 農林水産省「国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査の結果について」(年度別一覧)
- 厚生労働省「食品中に残留する農薬等に係るポジティブリスト制度」
- 農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」(制定 平成4年10月1日/改正 平成19年3月23日)
- 平良木武・鈴木茂・及川英雄「無農薬で栽培したリンゴの病害虫による被害と樹体への影響」北日本病害虫研究会報 44巻 81-82頁(1993年)
- 農林水産省「第15号特別分析トピック:我が国と世界の農薬をめぐる動向」
- 厚生労働省「輸入食品監視業務」
- 消費者庁「食品中の残留農薬等」
この記事を書いた人
- 子どもの食育に取り組み、塾では大人にも栄養の話をしています
- 自身のうつの経験から栄養に行き着き、ダイエットも実践中
- 医療系の国家資格は持っていません。だから出典を明示して書いています
免責:本記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を目的としたものではありません。食生活で気になることがある場合は、医師や管理栄養士など専門家にご相談ください。
最終更新: 2026年8月4日
更新履歴
- 2026-08-04 初版公開



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