「配偶者が太ると、自分が太るリスクが37%上がる」
健康系のセミナーや動画でよく出てくる数字です。私も最初に聞いたとき、面白い話だなと思いました。同じものを食べていれば、そうなるだろうなと。
ただ、その後に続く説明が引っかかりました。「同じ食事をしているうちに腸内細菌が似てくるからだ」という部分です。
原典を読んだら、そこは書かれていませんでした。
元の研究はこれです
Christakis と Fowler が2007年に New England Journal of Medicine に発表した論文です。フラミンガム心臓研究のデータを使い、12,067人のつながりを1971年から2003年までの32年間追跡しています。
規模も期間も立派な研究です。そこは疑っていません。
報告された数字はこうでした。
| 関係 | リスク上昇 |
|---|---|
| 友人が肥満になった場合 | 57% |
| 兄弟姉妹が肥満になった場合 | 40% |
| 配偶者が肥満になった場合 | 37% |
ここまでは、よく紹介されているとおりです。
括弧の中を見ると、話が変わります
論文には、それぞれの数字に95%信頼区間がついています。紹介記事ではだいたい省かれます。
| 関係 | 点推定 | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 友人 | 57% | 6%〜123% |
| 兄弟姉妹 | 40% | 21%〜60% |
| 配偶者 | 37% | 7%〜73% |
信頼区間というのは、ざっくり言えば「本当の値がこのあたりに入っていそう」という幅です。
配偶者の欄を見てください。7%から73%。10倍の開きがあります。友人にいたっては6%から123%で、20倍です。
つまり「37%上がる」という数字は、幅の真ん中を取り出しただけのものです。実際には「ほとんど変わらないかもしれないし、倍くらい違うかもしれない」という状態でした。
これを「37%上がります」と言い切ってしまうと、研究が言っていることより強くなります。

「同じ環境にいるからでは?」という批判
この研究には、発表直後から強い批判がありました。中心は2つです。
交絡。夫婦や友人は同じ環境にいます。近所に何の店があるか、地域の食習慣がどうか、経済状況が似ているかどうか。そういう共通の要因が体重を動かしているのに、それを「うつった」と読んでしまっている可能性です。
ホモフィリー。似た者同士が友人になりやすい、という性質です。もともと食習慣や生活が似ている人同士が友達になっているだけなら、片方が太ったときにもう片方も太るのは自然です。伝染ではありません。
Cohen-Cole と Fletcher らは、環境要因を統制する標準的な手法を当てはめると推定値が小さくなり、統計的にゼロと区別できなくなると報告しました。ファストフード店の多さのような地域特有の要因で説明がついてしまう、という指摘です。
著者側の反論もあり、この論争は決着していません。決着していない、というのがいまの正確な状態です。

腸内細菌の話は、この研究には出てきません
冒頭に戻ります。
フラミンガム心臓研究は腸内細菌を測っていません。1971年からの研究ですし、そもそも社会的なつながりと体重の関係を見た研究です。
「配偶者が太ると37%」という数字と、「腸内細菌が似てくるから」という説明は、別々のところから来て、どこかでくっつけられたものです。
腸内細菌が同居者間で似てくるという研究は別に存在します。それ自体は面白い話です。ただ、37%という数字の根拠にはなりません。数字だけ有名な研究から借りてきて、説明は別の話をつける。この形はけっこう見かけます。

このあたりは「痩せ菌」の記事でも同じ構造を書きました。
じゃあ、この研究は無意味なのか
そうは思いません。
同居している人と食習慣が連動するのは、経験として納得できる話です。夜に誰かがアイスを食べていれば自分も食べます。相手が運動を始めれば付き合うこともあります。
研究が示したのは「関連がありそうだ」というところまでです。関連は見つかった。原因かどうかは分からない。その線を越えないで使えばいい、というだけだと思っています。
生活を変えたいなら、一緒に暮らす人を巻き込むほうがやりやすい。これは37%という数字がなくても言えることです。
確かめられたこと、言い切れないこと
原典で確かめられたこと
- 研究は Christakis と Fowler が2007年に New England Journal of Medicine に発表したもの
- フラミンガム心臓研究の12,067人を1971年から2003年まで追跡
- 友人57%(95%信頼区間 6〜123%)、兄弟姉妹40%(21〜60%)、配偶者37%(7〜73%)
- 交絡とホモフィリーによる批判があり、標準的な計量手法では推定値がゼロと区別できなくなるという報告がある
- 論争は決着していない
言い切れないこと
- 肥満が人から人へ「うつる」と証明されたわけではありません
- 37%という数字を確定した値として使うことはできません
- 腸内細菌がこの現象の原因である、という説明はこの研究に含まれていません
- 逆に「社会的なつながりは体重と無関係」とも言えません。分かっていない、が正確です
てびきの場合
私は妻と一緒にダイエットをしています。理由は科学的な根拠ではなく、単純に一人だと続かなかったからです。
夜に片方が食べ始めるともう片方も食べる、というのは実際にありました。今は買い置きを減らしています。それだけの話です。効果を保証するものではありませんし、感じ方には個人差があります。
37%かどうかは分かりません。ただ、影響し合っているのは確かだと思っています。
よくある質問
Q1. 結局、肥満はうつるんですか?
「うつる」と証明された状態ではありません。関連は報告されていますが、同じ環境にいることや、もともと似た人同士がつながっていることで説明できる可能性が残っています。
Q2. 信頼区間って何ですか?
本当の値がありそうな範囲のことです。幅が狭いほど推定が安定していて、広いほど不確かです。この研究の配偶者の欄は7%から73%で、かなり広い部類に入ります。
Q3. 友人の57%がいちばん大きいのはなぜですか?
論文はそう報告していますが、信頼区間は6%から123%と最も広いです。数字が大きいことと、確かであることは別だと考えたほうがよさそうです。
Q4. 腸内細菌が似てくるという話は嘘ですか?
嘘ではありません。同居者間で腸内細菌が似るという研究は別に存在します。ただし、それが37%という数字の説明になるわけではない、という話です。
Q5. 一緒に住んでいる人が太ったら気をつけるべきですか?
生活習慣が連動しやすいのは実感として分かる話です。ただ、相手を責める材料にするのは違うと思います。仕組みを共有するほうが現実的です。
Q6. 一人暮らしなら関係ないですか?
この研究は友人関係も対象にしています。同居に限った話ではありません。ただ、いずれも確定した因果ではないので、あまり気に病む必要はないと思います。
Q7. ダイエットは家族と一緒にやるべきですか?
正解はありません。私は一緒にやっていますが、それは続けやすかったからです。人によっては一人のほうが集中できます。
Q8. 体重が気になっていて、体調も不安です
自己判断で食事を大きく制限する前に、医療機関でご相談ください。持病のある方や服薬中の方は特にお願いします。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。効果や感じ方には個人差があります。持病のある方、通院中・服薬中の方、妊娠中・授乳中の方は、自己判断で食事や運動を大きく変更せず、必ず医師などの専門家にご相談ください。
信頼できる公的情報
- Christakis NA, Fowler JH.「The Spread of Obesity in a Large Social Network over 32 Years」N Engl J Med. 2007;357:370-379.
- Cohen-Cole E, Fletcher JM.「Is Obesity Contagious? Social Networks vs. Environmental Factors in the Obesity Epidemic」
- 厚生労働省「e-ヘルスネット」
この記事を書いた人
- 子どもの食育に取り組み、塾では大人にも栄養の話をしています
- 自身のうつの経験から栄養に行き着き、ダイエットも実践中
- 医療系の国家資格は持っていません。だから出典を明示して書いています
免責:本記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を目的としたものではありません。症状がある場合は医師など専門家にご相談ください。
最終更新: 2026年8月2日
更新履歴
- 2026-08-02 初版公開



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