国がワクチンを止めた基準を、過去にさかのぼって数えてみました

国はワクチンをどんなときに止めてきたか。日本脳炎はADEM1例で5年、HPVは死亡認定ゼロで8年10か月止まった経緯を扱う記事のアイキャッチ 医学

日本脳炎ワクチンの接種勧奨が、5年間止まっていた時期があります。

きっかけは1件でした。接種後に重い神経の病気になった人が、国の救済制度で認定された。それが2005年です。

このとき厚生労働省は「厳格な科学的証明はない」と自ら述べています。証明を待たずに止めた、ということです。

この記事は、接種を勧めるものでも、やめるよう勧めるものでもありません。 医学的な安全性の評価もしません。やるのは1つだけです。国が過去にワクチンを止めたとき、その判断は何件で下されたのか。それを厚生労働省の公開資料から数えて並べます。

前回の記事で、推進側と批判側で争われていない事実を整理しました。今回はその続きです。医学の争点には入りません。行政が残した記録だけを見ます。

日本脳炎・MMR・HPV・新型コロナで国が接種を止めた基準と件数の比較表|予防接種 健康被害救済制度

日本脳炎は、たった1例で5年止まった

2005年5月30日、日本脳炎ワクチンの積極的な勧奨が差し控えられました。

きっかけは、接種後にADEM(急性散在性脳脊髄炎)になった人への健康被害認定です。1件でした。

厚生労働省はこのとき「厳格な科学的証明はない」としています。それでも止めた。より安全な製法のワクチンに切り替わる2009年度まで、約5年続きました。

→ 国は「証明されたら止める」ではなく「否定できないなら止める」で動いた前例がある、ということです。

MMRは、死者ゼロで中止になった

1993年4月27日、新三種混合ワクチン(MMR)の接種が中止されました。

理由は無菌性髄膜炎です。数千人に1人の割合で起きていました。死亡ではありません。

1989年に導入されて、4年で中止。その後およそ30年、日本でMMRは復活しませんでした。

→ 死者が出ていなくても、頻度が高ければ止まる。これも前例です。

HPVワクチンは、死亡認定ゼロで8年10か月止まった

救済制度の申請は無期限なのにカルテの法定保存義務は5年で終わることを示した2021年から2026年の時系列図|予防接種 健康被害救済制度 カルテ

2013年6月14日、HPVワクチンの積極的勧奨が差し控えられました。厚生労働省の健康局長名の通知です。

同じ日の専門家会議は、こう言っています。「定期接種を中止するほどリスクが高いとは評価されない」。

リスクが高いとは評価しない。それでも止める。 そういう判断でした。理由は「適切な情報提供ができるまでの間」です。

再開は2022年4月。8年10か月かかりました。

そして厚生労働省の公式集計では、HPVワクチンの死亡認定は0件です。1件もないまま、8年10か月止まりました。

→ 「死亡が出たかどうか」は、止める条件ではなかった。これが記録に残っている事実です。

45年分の全ワクチンを足した死亡認定は、151件だった

ここからは数を見ます。

厚生労働省は「予防接種健康被害救済制度 認定者数」という表を公開しています。制度が始まった昭和52年2月からの累計です。

45年分24種類の全ワクチン合計151件と新型コロナ単独1061件の棒グラフ比較|予防接種 死亡認定

令和3年末までの数字を、そのまま書きます。

ワクチン 死亡認定
痘そう 42
DPT 20
インフルエンザ(臨時) 20
麻しん 14
ポリオ(経口生) 12
日本脳炎 11
インフルエンザ(定期) 5
MMR 3
BCG 2
HPV 0
その他13種 22
24種類の合計 151

約45年間、24種類のワクチンを全部足して151件。これが日本の予防接種の、死亡認定の総数です。

→ 数十件ではなく数百件でもない。この規模感が、過去の判断の土台にありました。

新型コロナワクチン単独では、1,061件

同じ制度の、同じ「死亡認定」です。

新型コロナワクチンの死亡認定は、2026年1月26日の公表時点で1,061名でした。救済制度全体の認定は、2026年7月13日時点で9,487件に達しています(進達受理15,481件・否認4,753件)。

45年・24種類の合計が151件。コロナ単独で1,061名。約7倍です。

審査はいまも続いていて、数字は月ごとに増えています。

→ 過去のどの前例とも、桁が違います。これは評価ではなく、厚生労働省の審査会が公表している数字です。

「接種回数が桁違いだから」は、実は成り立たない

新型コロナ4億3600万回と45年分の全ワクチン10億回超の接種回数の帯グラフ|予防接種 分母

ここでよく出る反論があります。コロナは接種回数が多いから件数だけ比べても意味がない、というものです。

数えてみると、逆でした。

コロナワクチンの接種は約4億3,600万回。一方、45年分の全ワクチンは、毎年のインフルエンザ約5,000万回に、子どもの定期接種を45年積み上げたものです。10億回を大きく超えます。

分母は、過去のワクチン群のほうが大きい。 1回あたりで見ると、差はむしろ開きます。

→ 「回数が違うから」で片付く話ではありませんでした。

救済の予算は、3億6,000万円から394億円に積み増された

数字はもう1つあります。予算です。

令和5年度の補正予算書に「新型コロナウイルス予防接種健康被害給付費負担金」という項目があります。

当初の成立予算は約3億6,000万円。そこに約394億円が追加されました。改定後は約397億円です。

約110倍。当初の見積もりが、過去のワクチンの被害規模を前提にしていたことがうかがえます。

→ 制度を動かしている側の見積もりが、どれだけ外れたか。予算はそれを正直に映します。

国は同じ死について、2つの制度で違う答えを出している

副反応疑い報告制度ではα0件β0件γ23件、救済制度では死亡認定1061件と判断が分かれる構造の図|予防接種 因果関係 評価不能

ここが一番わかりにくく、そして一番重要なところです。

接種後の死亡を扱う制度は、2つあります。

制度 何をする 判断
副反応疑い報告制度 医師や企業からの報告を専門家が評価 因果関係を判定する
予防接種健康被害救済制度 本人や遺族が申請 厳密な因果関係までは求めない

副反応疑い報告のほうを見ます。2025年10月24日の副反応検討部会の資料に、ファイザー製ワクチンの死亡報告の評価が載っています。

令和6年4月からの累計で、こうなっていました。

評価 意味 件数
α 因果関係が否定できない 0件
β 因果関係が認められない 0件
γ 情報不足等により評価できない 23件

すべてγです。ここで注目してほしいのはαではなく、βがゼロだという点

βは「ワクチンのせいではないと認められた」という判定です。それも1件も出ていません。肯定も否定もされていない。

一方、救済制度のほうでは1,061名が死亡認定されています。認定通知には法律の条文にもとづく文言が入ります。「当該死亡が当該予防接種を受けたことによるものであると認定する」。

→ 制度の目的が違うので、数が違うこと自体はおかしくありません。ただ遺族から見ると、同じ死について国から2つの答えが返ってくることになります。

遺族が診療録2,000枚を集める負担は、法律の要求ではない

救済制度に申請するには、受診証明書、診療録、死亡診断書、領収書などが要ります。集めるのは本人か家族です。

学術誌「臨床評価」に載った分析(鈴村泰、2023年)に、申請までに1年2か月かかった実例が紹介されています。書類の不備で何度も窓口で受理されず、診療録およそ2,000枚を病院から取り寄せた、というものです。

この論文が指摘しているのは、そこではありません。

予防接種法15条には、医学的データの収集方法が書かれていない。 つまり「本人や家族が自分で集めること」は法律の要求ではなく、運用です。政令や省令で変えられる、と論文は述べています。

同じ論文は、厚生労働省の資料に「必要に応じ、医療機関等に対し、審査に係る資料の提出を求める」とある点も挙げています。すべてを申請者が集める建て付けにはなっていない、ということです。

→ この負担は、法律を変えなくても軽くできる余地がある。これは制度の話であり、医学の話ではありません。

今日、頭に入れておくこと

項目 数字
日本脳炎の勧奨差し控え ADEM 1例の認定がきっかけ・約5年
MMRの中止 死者0・無菌性髄膜炎が数千人に1人・30年復活せず
HPVの勧奨差し控え 死亡認定0件・8年10か月
45年・24種類の死亡認定 合計 151件
新型コロナの死亡認定 1,061名(2026年1月時点)
救済給付の補正予算 3億6,000万円 → 394億円追加

もう1つ、いま動いていることがあります。

カルテの保存義務は5年です。接種が始まったのは2021年2月。2026年2月で5年が過ぎました。

救済制度への申請は無期限でできます。申請はいつでもできるのに、申請に必要な書類のほうが先に消えていく。 大阪府議会などから、保存期間の延長を求める意見書が出ています。

接種後の体調について申請を考えている方は、受診した医療機関にカルテの保存を依頼しておく。今日できることがあるとすれば、これだと思います。

念のため

・この記事は行政の判断の記録を並べたもので、ワクチンの安全性を評価したものではありません

・救済制度の認定は「因果関係が否定できない」という基準で、医学的な因果の証明とは別です

・接種の判断は、体調や年齢によって変わります。かかりつけ医にご相談ください

てびきの場合

コロナ禍のとき、私は健康の発信をしていて「陰謀論」と言われた側です。

あのころ困ったのは、どちらの言い分も強く聞こえて、自分では判定できなかったことでした。医学の話になると、私には検証する力がない。

それで最近は、行政が自分で出した記録だけを見るようにしています。集計表とか、通知とか、予算書とか。あれは推進側も批判側も、否定しようがないので。

今回もそうやって数えてみたら、正直、想像していたのとは違う絵が出てきました。私はまだ、これをどう受け止めるか決めきれていません。

よくある質問

Q1. この記事は、ワクチンが危険だと言っているのですか?

言っていません。安全性の評価はしていないです。書いたのは「国が過去にワクチンを止めたとき、その判断は何件だったか」という記録だけです。

Q2. 死亡認定1,061名は、ワクチンで1,061人が亡くなったという意味ですか?

違います。救済制度の認定基準は「接種によって起こることが否定できない」であり、医学的に因果関係が証明されたという意味ではありません。この点は厚生労働省も明記しています。

Q3. では、その1,061名は多いのですか、少ないのですか?

判断材料として並べられるのは、同じ制度の過去の数字です。45年・24種類の合計が151件でした。多い少ないの評価は、読んだ方にお任せします。

Q4. なぜ、ほとんどが「評価不能」になるのですか?

厚生労働省の資料では「情報が十分でない、使用目的又は方法が適正でない等のため因果関係の評価ができない症例」と定義されています。審議会が「心電図の所見などの情報が望まれる」と書いた例もあります。情報が足りないことが理由とされています。

Q5. HPVワクチンは今どうなっていますか?

2022年4月に積極的な勧奨が再開されています。差し控えの期間に接種機会を逃した世代への公費接種も行われました。

Q6. 日本脳炎ワクチンは今も止まっているのですか?

止まっていません。2009年に新しい製法のワクチンが承認され、2010年度から勧奨が再開されました。接種率も回復しています。

Q7. 救済制度の申請は、いつまでできますか?

期限は設けられていません。ただしカルテの法定保存期間は5年です。申請を考えている場合は、早めに医療機関へ保存を依頼しておくほうが安全だと思います。

Q8. 副反応疑い報告と救済制度、どちらに出せばいいですか?

役割が違います。副反応疑い報告は医師や製造販売業者が国に報告するもの。救済制度は本人や家族が市町村に申請するものです。給付を受けたい場合は後者になります。まずはお住まいの市町村の窓口にご相談ください。

参考にした資料

  • 厚生労働省「予防接種健康被害救済制度 認定者数」(令和3年末現在・昭和52年2月からの累計)
  • 厚生労働省 疾病・障害認定審査会 感染症・予防接種審査分科会 審議結果
  • 厚生労働省 厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会 資料
  • 厚生労働省「日本脳炎ワクチン接種後に報告されたADEMへの対応について」
  • 日本小児科学会「国による日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて」
  • 令和5年度厚生労働省補正予算書
  • 鈴村泰「厚生労働省によるCOVID-19ワクチン有害事象の関連性認定に関する考察」臨床評価 2023;51(1):91-101

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本記事は健康・医療に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。また、予防接種を推奨または非推奨とするものでもありません。効果や感じ方には個人差があります。持病のある方、通院中・服薬中の方、妊娠中・授乳中の方、体調に不安のある方は、自己判断で実践せず、必ず医師・薬剤師などの専門家にご相談ください。気になる症状がある場合は医療機関を受診してください。

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この記事を書いた人

てびき

てびき
学習塾を営む二児の親/健康・栄養の情報を発信
    • コロナ以前から仕事のなかで健康と栄養の知識を学び続けてきました
    • 子どもの食育に取り組み、塾では大人にも栄養の話をしています
    • 自身のうつの経験から栄養に行き着き、ダイエットも実践中
    • 医療系の国家資格は持っていません。だから出典を明示して書いています

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更新履歴

    • 2026年8月16日:公開

最終更新:2026年8月16日

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