
2020年から2021年にかけて、新型コロナウイルスが研究所から漏れた可能性を口にすると、かなりの確率で「陰謀論」と言われました。SNSの投稿が消され、記事が削除されたこともあります。
それから6年。状況はかなり変わりました。
2026年、アメリカで大量の政府文書が公開されています。ファウチ元所長の日記が1141ページ。国家情報長官室の機密解除文書が4分冊。そして、論争の中心にあった研究助成金の報告書そのもの。
この記事では、それらを報道経由ではなく、原本にあたって読みました。そのうえで「書類に書いてあること」と「まだ誰も証明していないこと」を分けて整理します。
結論を先に言うと、確定した部分はかなり大きい。でも、よく語られる主張のうち、証拠が出ていないものもはっきりあります。両方書きます。

2026年に何が起きたのか
時系列だけ先に押さえておきます。
2026年6月18日、アメリカの国家情報長官室(ODNI)が、コロナ起源に関する機密解除文書を公開しました。2026会計年度の国防授権法という法律で、情報機関に見直しと公開が義務づけられていたものです。誰かがリークしたわけではなく、法律に基づいた公開でした。
7月25日から26日にかけて、ランド・ポール上院議員がファウチ元所長の日記1141ページを公開します。保健福祉省が政府サーバーから見つけたもので、期間は2019年12月から2022年12月。パンデミックの全期間です。
そして7月29日、上院の委員会がファウチ氏を召喚状で呼び出しました。本人は憲法修正第5条の黙秘権を行使し、100回以上、質問への回答を拒否しています。委員会は8月5日に議会侮辱決議の採決を予定しました。
ここまでは日本のメディアも報じています。AP、BBC、WSJ、時事通信が日本語で配信済みです。
問題はここから先。報道が扱っているのは日記の「トランプ評」や「有名になった心境」といった読み物になる部分が中心で、書類の中身そのものはあまり掘られていません。
一次資料①:これが一番強い。NIH助成金の報告書原本
ODNIが公開した文書の4分冊目、78ページ。これが何なのか、報道ではほとんど触れられていませんでした。
開いてみたら、エコヘルス・アライアンスという団体がアメリカ国立アレルギー感染症研究所(NIAID)に提出した、研究助成金の進捗報告書の原本でした。

基本情報を並べます。
プロジェクト名は「コウモリコロナウイルス出現リスクの理解」。助成番号は 5R01AI110964-05。助成元は NIAID で、ここはファウチ氏が所長を務めていた研究所です。研究責任者はピーター・ダスザック氏。
対象期間は2018年6月から2019年5月。ところが提出日は2021年8月3日でした。2年2ヶ月遅れの提出です。
そして参加者リストに、武漢ウイルス研究所の石正麗(せき・せいれい)氏と葛行義氏が、共同研究者として名前で載っています。所属欄に「Wuhan Institute of Virology」とはっきり印字されています。
報告書に書かれていた実験
15ページ目に、実験の記述があります。原文はこうです。
Mice were infected with 4 strains of SARSr-CoVs with different S protein, including the full-length recombinant virus of SARSr-CoV WIV1 and three chimeric viruses with the backbone of WIV1 and S proteins of SHC014, WIV16 and Rs4231, respectively.
訳すと、ヒトのACE2受容体を持つよう遺伝子改変したマウスに、4種類のコロナウイルスを感染させた、という話です。4種のうち3種は、WIV1というウイルスを骨格にして、別のウイルスのスパイク蛋白を組み込んだキメラウイルスでした。
結果がこう書かれています。
14 days post infection, 5 out of 7 mice infected with WIV1 remained alive (71.4%), while only 2 of 8 mice infected with rWIV1-SHC014 S survived (25%).
感染から14日後、元のウイルスに感染したマウスは7匹中5匹が生きていました。生存率71.4%です。
一方、キメラウイルスに感染したマウスは、8匹中2匹しか生きていませんでした。生存率25%。
さらに、キメラウイルスは脳内でも検出され続け、ウイルス量が増え続けたと書かれています。研究者自身の結論はこうです。
These results suggest that the pathogenicity of SHC014 is higher than other tested bat SARSr-CoVs
組み替えたほうが病原性が高かった、と本人たちが書いている。これが助成金の報告書に載っています。

隠れた実験ではなく、申請書に書いてあった
もうひとつ大事な点があります。
報告書の2ページ目、研究の目的3にこう書かれています。変異体を作って、ACE2受容体を使えるようになるにはどれだけ進化が必要かを調べる。ヒト化マウスを使う、と。
つまりこれは、こっそりやっていた実験ではありません。申請の段階で書かれていて、それを承認して資金が出ています。
ファウチ氏は2021年5月、宣誓のうえで「NIHは武漢で機能獲得研究に資金提供したことは一度もない」と証言しました。この否認は、規制上の「懸念される機能獲得研究」という定義に沿ったものです。
ただ、一般的な言葉の意味での「機能が上がった」、つまり病原性が上がったという事実は、この報告書に書いてあります。ここは言葉の定義の争いであって、何が起きたかの争いではありません。
一次資料②:ファウチ氏の日記
日記1141ページを全文テキスト化して、論点別に検索しました。3万行ほどあります。
一番よく引用されるのが2020年2月1日の記録です。12人の科学者との電話会議について、こう書かれています。
There was not total agreement about the likelihood of deliberate insertion. Ron Fouchier said he was sure that this could occur naturally… Also, Christian Drosten was with Ron; the rest felt that deliberate insertion was possible
自然に起こり得ると主張したのは2人。残りは「意図的な挿入はあり得る」と考えた、と書かれています。
ここで訳し方に注意が必要です。原文は possible、つまり「あり得る」です。「そうだった」ではありません。この違いを潰すと、こちらが誇張した側になります。
前日の1月31日の記録も面白い。
Everyone thinks that is crazy, but the Farrar phone call was different.
当時出回っていた「HIVの配列が挿入された」という説については「誰もが馬鹿げていると思っている」と書きつつ、この電話は違う、と書き分けています。彼自身は、荒唐無稽な説と真面目な科学的懸念を区別していたわけです。
報道がほとんど触れていない記述
全文を検索して見つけた、意外な記述を3つ紹介します。
ひとつめ。武漢の助成金についての説明を、NIHのサイトに載せようとしたら、保健福祉省の広報部門に止められた、という記録があります。ファウチ氏はこれに反対していて、説明しなければ隠していると見られる、という趣旨を書いています。単純な図式では読めない部分です。
ふたつめ。製薬企業との癒着を示す記述は、全文を検索しても見つかりませんでした。むしろモデルナとは対立的なやり取りが記録されています。責任者の能力を疑う記述や、資金を止めると圧力をかけるしかない、という記述まであります。これは批判側の主張にとって不利な材料ですが、正直に書いておきます。
みっつめ。これは健康に直接関わる話なので、少し丁寧に書きます。
若い男性の心筋炎リスクは、内部で議論されていた
日記の2021年後半に、ブースター接種をめぐる内部のやり取りが繰り返し出てきます。
争点は、若い男性の心筋炎リスクでした。安全性のデータが足りない、という懸念が疾病対策センターや予防接種の諮問委員会の側から出ていた、と書かれています。
ファウチ氏の記述はこうです。
I have been pushing hard within the Medical Group as well as publicly saying that… we should clearly boost everyone. … This is a situation where I am clearly at odds with the conservative approach of the ACIP
全員に打つべきだと強く主張してきた、諮問委員会の慎重な姿勢とは明確に対立している、と本人が書いています。
誤解のないように補足します。
若い男性、特に10代から20代のmRNAワクチン接種後の心筋炎については、隠されていた話ではありません。厚生労働省もアメリカの疾病対策センターも、既知のリスクとして公表しています。多くは軽症で回復するとされていますが、リスクの存在自体は公的に認められています。
この日記が示しているのは、リスクがあったかどうかではなく、そのリスクをめぐる内部の議論がどう決着したかという「過程」です。慎重論が実際に存在し、それが押し切られた記録が残っていた。ここが新しい部分になります。
そして、これは接種を勧める記事でも、やめるよう勧める記事でもありません。接種の判断は、年齢や持病、生活状況によって変わります。気になる方は自己判断せず、かかりつけ医に相談してください。

一次資料③:ODNIの機密解除文書
3つめの資料からは、2点だけ。
2021年7月の内部メールに、大統領直轄の90日間調査の責任者からの連絡が残っています。ファウチ氏が、情報機関が誰に聞き取りをすべきかを推薦していた、という内容です。
これに対して、別の職員が疑問を出しています。
whether to take a policymaker’s recommendations on who we should consult as part of an IC study–particularly given the various strong views on the subject
政策担当者の推薦を受け入れていいのか、しかも当該テーマに強い見解を持つ人物なのに、という趣旨です。
「ファウチ氏が情報機関の評価に影響を与えた」という主張は、これで伝聞から公文書のレベルに上がりました。ただし上がったのは「専門家の推薦をして、内部で適否が議論された」ところまでです。結論を覆させた証拠ではありません。
もう1点、注意喚起を。よく出回っている「CIAの科学者7人が6対1で研究所由来と評決したが、上層部に覆された」という話。これは文書の中に、ポール議員のインタビュー発言として引用されているだけです。CIAが認めた内容ではありません。ここを取り違えると誤報になります。
整理:確定したこと
ここまでを、線引きして並べます。
まず、書類で裏が取れたことから。
研究所流出説は、陰謀論ではなく正当な仮説として扱われています。エネルギー省、CIA、FBIがいずれも研究所由来の可能性を支持しており、FBIは唯一「中程度の確信」を示しています。2020年から2021年にかけて、この説を投稿削除の対象にしていた当時の対応は、その時点ですでに誤りでした。
NIAIDの資金で、コウモリコロナウイルスのキメラ株が作られました。政府提出書類の原本に書かれています。
そのキメラ株のひとつは、元のウイルスより致死率が高くなりました。7匹中5匹と、8匹中2匹という具体的な数字つきです。
武漢ウイルス研究所の研究者が、この助成金の共同研究者でした。参加者リストに所属ごと載っています。
ファウチ氏の私的な認識と公的な発言に食い違いがありました。日記が原本で残っています。
若い男性の心筋炎をめぐる慎重論が内部に存在し、押し切られた記録があります。

整理:まだ証明されていないこと
ここからが大事です。ここを混ぜると、上の6つまで一緒に疑われます。
新型コロナウイルスがこの研究から生まれた、という証拠はありません。報告書に出てくるWIV1やSHC014は、新型コロナとは遺伝的にかなり離れています。これらから新型コロナが生じるのは分子的に不可能だ、という点については、批判側と主流派の見解が珍しく一致しています。ファウチ氏自身も日記に同じ趣旨を書いています。
意図的にばら撒かれた、という証拠もありません。ファウチ氏の日記でさえ、研究所由来だとしたら偶発的な流出が最も可能性が高い、という書き方です。78ページの報告書にも、兵器化や放出を示す記述は一行もありませんでした。
mRNAワクチンが計画的な犯罪だった、という主張も、今回公開された資料には出てきません。7月の公聴会でも、争点は起源と記録の開示でした。
起源論争そのものも決着していません。エネルギー省、CIA、FBIは研究所寄りですが、残り4機関と国家情報会議は依然として自然発生寄りです。6年経っても決定的な証拠は出ていません。中国側の協力がないまま、結論が出ない可能性も指摘されています。
黙秘権の行使は、有罪の証明にはなりません。ファウチ氏側は偽証罪の罠だと主張していて、これ自体は法律論として不合理ではないです。

私がこれを読んで思ったこと
てびきです。全部読むのに丸一日かかりました。正直、途中で何度か「これ本当に読み切る意味あるかな」と思いました。
でも読んでよかったです。理由がひとつあって、報道の要約と原本で、印象がけっこう違ったからです。
たとえば学校閉鎖の話。ファウチ氏が市長を「説得した」という部分がよく引用されます。ところが原本には、そのすぐ後ろに括弧書きで「彼はすでに私のテレビ発言に基づいて決めていた」と書いてあります。この括弧を落として引用している記事が、いくつもありました。
強い主張をするときほど、括弧の中まで引く。これ地味に大事だなと思いました。
もうひとつ。今回いちばん証拠力が強かったのは、告発でも証言でもなく、研究者自身が政府に出した事務的な報告書でした。感情のこもっていない、数字だけの書類です。
情報の強さって、声の大きさとは関係ないんだなと、改めて感じています。
よくある質問
Q1. 結局、コロナは研究所から漏れたのですか?
分かっていません。アメリカの情報機関の中でも判断が割れています。エネルギー省、CIA、FBIは研究所由来を支持、残る4機関と国家情報会議は自然発生を支持しています。決定的な証拠は6年経っても出ていません。
Q2. 「陰謀論」だと言われていたのは間違いだったのですか?
研究所流出という仮説自体を陰謀論として封じ込めた対応は、誤りだったと言えます。ただし、これは「陰謀論とされた主張がすべて正しかった」という意味ではありません。仮説として扱うべきだった、ということです。
Q3. 機能獲得研究とは何ですか?
ウイルスなどの性質を人為的に変える研究の総称です。感染性や病原性が高まる方向の改変を含む場合があり、そのリスクが議論されてきました。ただし規制上の定義は限定的で、今回の否認と食い違いも、この定義のズレから生じています。
Q4. アメリカのお金でコロナが作られたということですか?
いいえ。報告書に出てくるウイルスは新型コロナとは別物で、そこから新型コロナが生じることはないとされています。書類が示すのは「リスクの高い実験が公費で行われていた」ことであって、「それがパンデミックを起こした」ことではありません。
Q5. ファウチ氏は嘘をついていたのですか?
私的な記録と公的な発言に食い違いがあったことは、日記の原本で確認できます。ただし、それが偽証にあたるかどうかは法的な判断であり、この記事では扱いません。
Q6. 黙秘したのは、やましいことがあるからでは?
黙秘権の行使は、法的には有罪の証拠になりません。本人は偽証罪に問われる罠だと主張しています。ここは推測を挟まないほうが安全です。
Q7. 心筋炎のリスクがあるなら、ワクチンは打たないほうがいいですか?
この記事はその判断をするための記事ではありません。若い男性における接種後の心筋炎は公的に認められたリスクですが、年齢や持病、感染時のリスクとの兼ね合いで判断が変わります。必ず医師にご相談ください。
Q8. 日本のメディアは報じていないのですか?
報じています。7月29日の公聴会は、AP、BBC、WSJ、時事通信が翌日までに日本語で配信しました。「報じられていない」という主張は事実と異なります。
Q9. 一次資料は誰でも読めますか?
読めます。ODNIの機密解除文書は archive.dni.gov で公開されています。日記も上院委員会の公開分がネット上にあります。英語ですが、翻訳ツールを使えば追えます。
Q10. これから何を見ておけばいいですか?
8月5日に予定されている議会侮辱決議の採決が、直近の焦点です。あとは黒塗り部分の解除がどこまで進むかですね。
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信頼できる公的情報
- 厚生労働省「健康・食品・医療の情報」
- 厚生労働省「e-ヘルスネット(健康情報サイト)」
- 米国家情報長官室「機密解除文書アーカイブ」
- 米上院国土安全保障・政府問題委員会「公聴会記録」
この記事を書いた人
- コロナ以前から仕事のなかで健康と栄養の知識を学び続けてきました
- 子どもの食育に取り組み、塾では大人にも栄養の話をしています
- コロナ禍では発信する側にいて、いくつかの論点で「陰謀論」と呼ばれました
- 医療系の国家資格は持っていません。だから出典を明示して書いています
免責:本記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療や予防接種の推奨を目的としたものではありません。症状がある場合は医師・薬剤師など専門家にご相談ください。
本記事について:引用した英文はすべて公開されている一次資料の原本から直接引用し、訳文は筆者によるものです。
最終更新: 2026年7月30日
更新履歴
- 2026-07-30 初版公開


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