「花粉が飛び始める2週間前から飲み始めるといい」
そう聞いたことはないでしょうか。私も、そういうものだと思っていました。
ところが一次資料をあたっていくと、この「2週間前」がどこから来たのかが分かりませんでした。学会や国の資料は、別のことを書いています。
この記事では、花粉の情報がどこにあるのかと、いつ動くかについて資料が何と言っているかを整理します。夏に読んでおくと、次のシーズンの動き方が変わります。

気象庁は、花粉を観測も予測もしていません
天気予報と一緒に花粉情報が流れるので、気象庁が出していると思っている人は多いはずです。私もそう思っていました。
気象庁のページを開くと、表題が「気象庁の花粉飛散予測への貢献」になっています。貢献であって、予測ではありません。
本文には、花粉の飛散予測は民間の気象事業者が実施していると明記されています。気象庁が公表している花粉の観測地点は0か所です。
気象庁がやっているのは、予測の材料になる気象データを提供することです。
→ 花粉情報の出どころは民間事業者です。どの会社のデータを見ているのかを一度確認してみてください。
環境省の全国120地点は、2021年に廃止されました
国が花粉を測っていないわけではありません。ただし規模が変わっています。
環境省は花粉自動計測器を全国120地点に配置して観測していました。この事業は2021年12月24日に廃止が発表され、観測が終了しています。
廃止の理由も明記されています。民間の気象事業者が環境省より多くの地点で飛散状況を提供するようになったから、というものです。
では今は何もないのかというと、そうではありません。令和8年春シーズンの環境省の観測は、全国27地点の協力機関によるものです。方法はダーラム法、単位は個/cm²です。
120から27へ。国の観測は残っていますが、密度は大きく変わりました。
→ 環境省の地点別データは公表されています。自分の県が27地点に入っているかを見ておくと、情報源の選び方が変わります。

同じ年に766倍の差があります。全国平均という数字は存在しません
花粉の量を「今年は多い」と一言で語れるものだと思っていました。これも違いました。
令和7年春の合計飛散量は、三重県津市が22,453.2、北海道札幌市が29.3です。同じシーズンのなかに、約766倍の開きがあります。
同じ地点でも年で振れます。香川県三木町は令和6年の286.4から令和7年は2,062.6へ、約7.2倍になりました。逆に静岡県静岡市は18,385.1から9,751.4へ、ほぼ半減しています。
雄花の花芽調査でも同じことが起きています。令和7年度は過去10年平均比200%以上が9道府県ある一方、50%以下が青森44%と岩手49%の2県ありました。同じ年に「平年の3倍超」と「平年の半分未満」が同時に存在します。
そして環境省が公表しているのは地点別のデータだけです。全国平均や全国合計という数字は出ていません。
→ 「今年は多い」を全国の話として受け取らないでください。見るべきは自分の地域の数字です。

「飛散開始日」は、スギが咲いた日ではありません
ニュースで「飛散開始」と聞くと、そこから飛び始めるように思えます。定義を見ると違います。
スギ花粉の飛散開始日は、1cm²あたりの花粉数が2日間連続して1個以上になった初日と決められています。スギの開花日ではありません。
つまり測定値が基準を超えた日であって、花粉がゼロから1になった日ではないのです。
環境省の資料は、この点をはっきり書いています。飛散開始日以前にも少量の花粉が飛ぶことがある、と。
→ 「飛散開始」の報道を待つと、すでに少量が飛んだ後になります。体感で先に気づく人がいるのはこのためです。

「飛散2週間前から」の出どころが、一次資料で見つかりませんでした
ここが今回いちばん確かめたかったところです。
「2週間前から」はネット上に大量に流通しています。ところが学会の文書、国の資料、ガイドラインの公開部分を探しても、これを現行の推奨として書いたものが見つかりませんでした。
近い記述はあります。日本耳鼻咽喉科学会会報の総説です。ただしその扱い方が重要でした。
総説は「以前のガイドラインでは花粉飛散の1〜2週間前から投与すると説明していた時代もあった」と書いています。過去の説明として触れているのです。
そのうえでこの総説は、現代の第2世代抗ヒスタミン薬について「即効性が証明されている」と記し、症状が少し出たタイミングで投与を開始しても期待できるとしています。
つまり「1〜2週間前」は古い版の説明で、いま同じことが推奨されているとは資料から言えませんでした。
念のため書いておくと、見つからなかっただけで、存在しないと証明したわけではありません。
→ 「2週間前から」を前提に予定を組む前に、下の3系統を見てください。あなたが聞いた説明がどれにあたるかが分かります。
いつ始めるかは、資料で3つに割れています
同じ「早めに」でも、資料によって言っていることが違います。混ぜると分からなくなるので、分けて並べます。
| 出どころ | 言っていること |
|---|---|
| 日本アレルギー学会 | 本格飛散開始予測日、または症状が少しでも現れた時点で使い始めるのが一般的。一部の薬や重症例では予測日の1週間ほど前から始めることもある |
| 環境省・厚生労働省のリーフレット | 本格的な飛散開始の1週間前までには、医療機関や薬局を活用して準備し、使用を開始する |
| 以前のガイドライン(過去の説明) | 花粉飛散の1〜2週間前から |
3つ目は現行の推奨ではありません。1つ目と2つ目も、よく読むと別のことを言っています。
学会は「予測日か、症状が出た時点」です。政府のリーフレットは「1週間前までに準備と開始」で、受診して薬を用意する行動まで含んだ言い方になっています。
どちらが正しいという話ではありません。前提が違うのです。
ただし薬の使い方は、持病や飲んでいる薬によって変わります。ここに挙げたのは資料の記述であって、あなたへの指示ではありません。
→ 受診のときに「学会は予測日か症状が出た時点、国のリーフレットは1週間前までに準備、と読みました」と伝えてください。話が具体的になります。

なお診療ガイドラインでは、飛散前から始める考え方が「初期療法」として、軽症・中等症・重症と並ぶ独立した列に置かれています。2024年版の第10版には「スギ花粉症に対して花粉飛散前からの治療は有効か」という項目も収載されています。
診療の枠組みとして位置づけられている、というところまでが資料から言えることです。
よく引かれる「38.8%」は、耳鼻咽喉科医とその家族の数字です
スギ花粉症の有病率としてよく出る数字があります。1998年16.2%、2008年26.5%、2019年38.8%。約10年ごとに約10ポイント増えている、というものです。
この数字の分母を見て驚きました。
調査の対象は、全国の耳鼻咽喉科医とその家族です。一般国民を無作為に抽出した標本ではありません。
2019年の調査は耳鼻咽喉科医10,984名に郵送し、4,749通の回答を得ています。回収率は43.2%です。有病率の分母は、本人・配偶者・両親・子を合わせた19,859名でした。
38.8%という数字は、解析対象18,393名のうち7,139名という内訳です。
調査が悪いという話ではありません。診断の質が高い集団を長期に追える利点があります。ただ「日本人の38.8%」と読むと、分母が違います。
→ この数字を人に話すときは「耳鼻科医とその家族を調べた数字で」と一言添えてください。それだけで正確になります。

ちなみに東京都の調査では都内の推定有病率が48.8%とされていますが、これは別の調査で推計方法も違います。全国の38.8%と並べて比較はできません。都の資料自体が、各回で判定基準と推計方法が変わっており単純比較はできないと明記しています。
花粉の少ない苗木は生産量の6割。でも植え替わった面積は1%以下です
対策は進んでいるのか。ここにも数字の落差がありました。
花粉の少ないスギ苗木の生産量は、令和6年度で1,919万本です。全スギ苗木生産量の約6割を占めます。10年前は約140万本でしたから、大きく増えました。
ところが、その苗木が植栽された面積はスギ人工林全体の1%以下です。
6割と1%以下。この2つは矛盾していません。片方は苗木の生産量の割合、もう片方は植え替わった面積の割合です。測っているものが違います。
スギ人工林は約441万haあります。毎年植え替えられる面積はそのごく一部ですから、生産量の比率が上がっても、面積が入れ替わるには時間がかかります。
→ 「花粉の少ない苗木が6割」というニュースを見たら、それは生産量の話だと受け取ってください。森が入れ替わった話ではありません。

目標は30年後に半減。いま何ha減ったかは公表されていません
国の目標は資料に書かれています。令和15年度までに、花粉発生源となるスギ人工林を約2割減少させる。将来的には約30年後に花粉発生量の半減を目指す、というものです。
この「2割」の対象に注意が必要でした。総スギ人工林ではなく、20年生を超えるスギ人工林が対象です。20年生以下は花粉の飛散がわずかなため、20年生超を発生源と定義しているからです。
そして、ここから先が確認できませんでした。
対策開始後に実際に減った面積が今どれだけか、公表資料で見つかりませんでした。進捗として出ているのは事業ベースの支援実績で、実測の面積ではありません。飛散量が実際に減ったという実績データも見当たりませんでした。
減っていないという意味ではありません。確認できなかった、という意味です。
→ 「対策で花粉が減った」という説明を見たら、目標値の話か実績の話かを分けて読んでください。
今日やること
夏のうちにやっておくと、次のシーズンの動き方が変わります。
| # | やること | なぜ |
|---|---|---|
| 1 | 自分の地域が環境省の27地点に入っているか見る | 情報源の選び方が変わります |
| 2 | いつも見ている花粉情報が、どの民間事業者のものか確認する | 気象庁は予測をしていません |
| 3 | 去年、自分がいつ症状に気づいたかを思い出してメモする | 報道の「飛散開始」より前のことがあります |
| 4 | かかりつけがあるなら、次の受診のときに開始時期を相談する | 資料は3系統に割れています |
| 5 | 3系統の違いをメモして受診に持っていく | 話が具体的になります |

念のため
・ここに書いたのは公開資料の記述であって、特定の治療をすすめるものではありません
・薬の使い方は持病や併用薬によって変わります。自己判断で始めたり変えたりしないでください
・症状が重い場合、目や鼻以外の症状がある場合は、医療機関を受診してください
よくある質問
Q1. 結局、いつから始めればいいのですか?
資料が3系統に割れているため、この記事では1つに決められません。学会は本格飛散開始予測日または症状が少し出た時点、国のリーフレットは飛散開始の1週間前までに準備と開始、としています。あなたに合う時期は主治医と決めてください。
Q2. 「2週間前から」は間違いなのですか?
間違いだと証明したわけではありません。現行の推奨として書いた一次資料が見つからなかった、というのが今回の結果です。日本耳鼻咽喉科学会会報の総説は「1〜2週間前」を過去のガイドラインの説明として扱っています。
Q3. 気象庁の花粉情報を見ていました。あれは何ですか?
気象庁は花粉の観測も予測もしていません。気象庁のページの表題は「気象庁の花粉飛散予測への貢献」で、予測は民間の気象事業者が実施していると明記されています。
Q4. 環境省のデータはどこで見られますか?
環境省が地点別の飛散量を公表しています。令和8年春シーズンは全国27地点の協力機関による観測です。全国平均や全国合計は公表されていません。
Q5. 「今年は例年の3倍」と聞きました。
その数字がどの地点のものかを確認してください。令和7年度の雄花花芽調査では、過去10年平均比200%以上の道府県と50%以下の県が同じ年に存在しました。全国一律ではありません。
Q6. 飛散開始前なら、まだ花粉は飛んでいないのですか?
飛んでいることがあります。飛散開始日は1cm²あたりの花粉数が2日連続で1個以上になった初日という定義で、それ以前にも少量が飛ぶことがあると環境省が明記しています。
Q7. 日本人の4割が花粉症なのですか?
よく引かれる38.8%は、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象にした調査の数字です。一般国民の無作為抽出ではありません。分母を添えて読んでください。
Q8. 花粉の少ない苗木が増えているのでは?
生産量では約6割を占めます。ただし植栽された面積はスギ人工林全体の1%以下です。生産量の割合と、植え替わった面積の割合は別のものです。
Q9. 検査の数字の読み方に興味があります。
同じ「公的な数字の読み方」として、「疲れが取れない」ときに測ってもらう血液項目と水道水の検査結果の読み方をまとめています。
Q10. 目標値の出どころを追った記事は他にありますか?
野菜350gに届いている人は5人に1人で、350gという目標量がどこから来たのかを一次資料で追っています。
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本記事は公開情報の整理を目的とした情報提供であり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。治療の開始時期や薬の使い方は、持病・併用薬・症状の重さによって変わります。自己判断で開始・変更・中止せず、医師・薬剤師などの専門家にご相談ください。症状が続く場合は医療機関を受診してください。
信頼できる公的情報
- 環境省「花粉観測システム(はなこさん)の運用終了について」
- 気象庁「気象庁の花粉飛散予測への貢献」
- 林野庁「花粉症に関するQ&A」
- 内閣官房「花粉症に関する関係閣僚会議」
- 日本アレルギー学会「アレルギーポータル 花粉症」
この記事を書いた人
- コロナ以前から仕事のなかで健康と栄養の知識を学び続けてきました
- 子どもの食育に取り組み、塾では大人にも栄養の話をしています
- 自身のうつの経験から栄養に行き着き、ダイエットも実践中
- 医療系の国家資格は持っていません。だから出典を明示して書いています
免責:本記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を目的としたものではありません。症状がある場合は医師・薬剤師など専門家にご相談ください。
最終更新: 2026年8月16日
更新履歴
- 2026-08-16 初版公開
参考にした資料
- 環境省 花粉観測システム(はなこさん)の運用終了について(2021年12月24日)
- 環境省 令和8年春のスギ・ヒノキ花粉飛散予測/花粉測定結果
- 環境省 スギ花粉飛散数調査マニュアル
- 環境省 令和7年度スギ雄花花芽調査の結果
- 気象庁 気象庁の花粉飛散予測への貢献
- 林野庁 花粉症に関するQ&A/花粉の少ない苗木の生産量
- 内閣官房 花粉症対策の全体像(令和5年5月30日決定)
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 総説(鼻アレルギー診療ガイドラインの解説)
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 鼻アレルギーの全国疫学調査2019
- 東京都 花粉症患者実態調査
- 日本アレルギー学会 アレルギーポータル
- 環境省・厚生労働省 花粉症の初期療法に関するリーフレット



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