「ゲノム編集食品が出回っているらしい」
そう聞いて、売り場で見分けようとしたことがあります。どこにも書いていませんでした。
調べてみると、書いていないのには理由がありました。表示の義務がありません。
ここまでは、知っている方も多いと思います。意外だったのはその先でした。義務にしなかった理由が、「安全だから」ではなかったのです。
消費者庁の資料には、こう書かれています。ゲノム編集かどうかを検査で見分ける方法が確立できない。書類で追う仕組みも整っていない。だから表示が正しいかどうかを誰も確かめられない。確かめられない表示は義務にできない。そういう順番でした。
不安を煽る話でも、安心してくださいという話でもありません。どういう仕組みでこうなっているのかを、公的な資料で確かめた記録です。

① 「ゲノム編集食品」が全部、届出だけで済むわけではありません
まずここを勘違いしていました。
ゲノム編集の技術は、消費者庁の資料では3つのタイプに分けられています。
A 狙ったDNAを切って、自然に修復される過程で変異を得るもの。B 切ったうえで、持ち込んだDNAを型にして修復させるもの。C 切ったうえで、外から遺伝子を組み込むもの。
このうち外から入れた遺伝子が残るBやCは、遺伝子組換え食品として扱われます。安全性審査を受ける必要があり、表示の義務もあります。
届出だけで流通できるのは、外来遺伝子が残らないAだけです。
→ 「ゲノム編集食品は審査なしで売られている」は、正確ではありません。どのタイプかで扱いが分かれます。

② 表示を義務にしなかった理由は「安全だから」ではなく「監視できないから」でした
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
消費者庁の資料は、義務化を見送った理由を2段構えで説明しています。
ひとつめ。ゲノム編集による変異と、従来の品種改良による変異を見分ける実用的な検査法が、まだありません。だから科学的に検証できない。
ふたつめ。流通の各段階で分けて管理する方法も確立していません。国際的にも必要な情報が十分に得られない。だから書類をたどる方法でも検証できない。
検査でも書類でも確かめられない。つまり表示が正しいかどうかを監視する体制が作れない。だから義務付けは今の時点では妥当でない、という結論です。
→ 「表示がない=安全性が確認されている」ではありません。「表示がない=表示の真偽を確かめられない」と読むのが正確です。

③ 見分けられないのは、昔からある品種改良と結果が同じになるからです
では、なぜ検査で見分けられないのか。
ゲノム編集のAタイプで最終的に起きる変化は、資料の表現では1〜数塩基の変異です。ごく小さな書き換えにとどまります。
そして、これと同じ変化を起こす品種改良が昔から行われてきました。放射線を当てたり薬剤を使ったりして、不特定のDNAを切断する方法です。突然変異誘発と呼ばれます。
ゲノム編集は、切る場所が狙い通りになった点が違うだけ。起きている変化そのものは同じ範囲に収まります。だから結果だけを見ても、どちらで作ったのか判別できません。
そして大事なのはここです。その昔ながらの方法で作られた品種も、表示なしでずっと流通してきました。
→ 「ゲノム編集だけが表示されていない」のではありません。DNAを切って変異を得る品種改良は、もともと表示の対象になっていません。

④ 「ゲノム編集でない」と書くことは、禁止されていません
ここで、思っていたのと逆の事実が出てきました。
消費者庁の資料には、「ゲノム編集技術応用食品でない」と表示することは特に禁止されるものではないと明記されています。
ただし条件が付きます。根拠となる資料を持っていること。例として挙げられているのは2種類です。農産物なら種苗会社による種子の証明を起点に、生産から販売まで他の品種と混ざらないよう管理したと分かる書類。水産物なら稚魚の証明を起点にした、同じ形の管理記録。
牛乳の成長ホルモンを調べたときは、「不使用」と書くこと自体が認められていませんでした。同じ「見分けられない」から出発しているので、こちらも書けないものと思い込んでいました。
→ つまり担保するのは検査ではありません。記録です。種や稚魚のところまでさかのぼって、混ざっていないことを書類で示す。それができる事業者だけが書ける表示ということになります。

⑤ 「遺伝子組換えでない」と書かれたゲノム編集食品が、制度上ありえます
ここが、いちばん引っかかった点でした。
ゲノム編集食品のうち外来遺伝子が残らないものは、制度の上では遺伝子組換え食品に該当しません。
ということは、食品表示基準の決まりに従えば、「遺伝子組換えでない」と表示することができます。ゲノム編集で作られていても、です。
消費者庁自身も、この点は認識しています。資料には、ゲノム編集技術と組換えDNA技術の違いを消費者が十分に理解しているとは言い難いと書かれています。そのうえで、「遺伝子組換えでない」と書く場合にはゲノム編集食品である旨もあわせて情報提供することが望ましいとしています。
望ましい、であって義務ではありません。
→ 「遺伝子組換えでない」は、「ゲノム編集でない」という意味ではありません。別の話です。ここを重ねて読まないようにしたいところです。

⑥ 届出は15件。半分近くが魚でした
実際にどれくらいあるのか、消費者庁が公表している一覧を数えてみました。
15件でした(2026年7月時点)。内訳がこうなっています。
トマトが6件。GABAを増やしたものが中心で、糖度を上げたものやカロテノイドを変えたものもあります。魚が6件。マダイ2件、トラフグ2件、ヒラメ1件、ティラピア1件です。残りはトウモロコシ、ジャガイモ、バナナが1件ずつ。
意外だったのは魚の多さでした。それと、届出者に海外の企業が3社入っていること。米国のコルテバ、米国のシンプロット、英国のトロピック・バイオサイエンシズです。
いちばん新しい届出は2026年7月15日。件数は増え続けています。
→ 「まだ日本には出回っていない」段階は過ぎています。種類も届出者も広がっているのが今の状況です。

⑦ 義務がないのに、売られている商品には表示がついています
制度の話だけ読むと、何も書かれていない食品が黙って並んでいる絵を想像します。実際は少し違いました。
日本で最初に売られたゲノム編集トマトは、シシリアンルージュハイギャバという名前で2021年9月に販売が始まっています。開発したサナテックライフサイエンスは、販売開始の発表のなかで、ゲノム編集技術で品種改良されたものであることと、関係当局に届出済みであることを商品に表示すると述べています。
義務ではないのに、自分から書いています。
理由は、消費者庁の資料からも読み取れます。届出されて公表されているものについては、積極的に情報提供するよう努めるべきという考え方が示されているためです。
→ 今のところ、売り場で分かるかどうかは事業者の姿勢しだいということになります。制度ではなく、書く側が決めています。
逆に、義務として書かれている表示もあります。ただしそちらはそちらで、数字がどこまでずれてよいかが成分ごとに決められています。→ 栄養成分表示の数字は、少ない側には20%までしか外れません
⑧ 消費者庁自身が「いまの形は暫定」と書いています
最後にもうひとつ。
今の扱いは確定したものではありません。消費者庁の資料には、流通の実態や諸外国の表示制度についての情報収集を続けたうえで、新しい知見が得られた場合には表示の義務付けも視野に入れつつ、取扱いの見直しを検討すると書かれています。
見直す可能性がある、と制度を作った側が明示しているわけです。
→ 「決まったこと」として覚えるより、動いている途中のものとして見ておくほうが実態に合っています。
今日からできること
調べる前と後で、見るところが変わりました。
| やること | なぜ |
|---|---|
| 売り場でゲノム編集かどうかを見分けようとしない | 表示の義務がない。見分ける手がかりが制度上そもそも無い |
| 気になるなら消費者庁の届出一覧を見る | 何が届出されているかは全部公表されている。15件しかない |
| 「遺伝子組換えでない」を「ゲノム編集でない」と読み替えない | 別の話。前者は書けても後者とは限らない |
| 「表示がない=安全が確認済み」と読まない | 義務化しない理由は安全性ではなく、確かめられないこと |
| 「ゲノム編集だけ表示されていない」と考えない | 放射線や薬剤による品種改良も、もともと表示対象外 |
| 商品名で覚えておく | シシリアンルージュハイギャバ、22世紀鯛、22世紀ふぐなど |
念のため
- ゲノム編集食品が人の健康に影響するかどうかは、確かめられていません。安全性の程度は従来の品種改良と同程度と考えられている、というのが現在の整理です
- 届出は義務ではなく、届出のない流通を排除する仕組みにはなっていません
- 食物アレルギーのある方、持病のある方は、食品の選択について医師や管理栄養士へ

てびきの場合
私がいちばん勘違いしていたのは、「表示がないのは、表示させたくない誰かがいるからだ」と思い込んでいたところでした。
資料を読んだら、順番が逆でした。確かめる手段がないから、義務にできない。義務にできないから、書く人と書かない人が出る。そういう流れです。
もうひとつ変わったのは、「ゲノム編集は新しくて怖い」という感覚のほうです。放射線や薬剤でDNAを切る品種改良が昔から行われていて、そちらは表示なしでずっと食べてきたと知って、線の引き方が自分の中で変わりました。新しい技術だけを特別扱いしていたな、と。
牛乳の成長ホルモンを調べたときと、入口はよく似ています。見分けられないものは表示にできない。ただし着地は違いました。牛乳は「不使用と書けない」でしたが、こちらは「書いてもよい。ただし記録で示せるなら」。同じ問題に、日本の制度が別の答えを出しているのが面白いところでした。
よくある質問
Q1. ゲノム編集食品は安全ですか
安全だと保証されているわけでも、危険だと確認されているわけでもありません。外来遺伝子が残らないものについては、生じる変異の安全性の程度は従来の品種改良と同程度と考えられる、というのが現在の整理です。
Q2. スーパーで見分けられますか
制度としての手がかりはありません。表示の義務がないためです。ただし事業者が自主的に表示している商品はあります。
Q3. なぜ表示を義務にしないのですか
検査で見分ける方法が確立しておらず、流通を書類で追う仕組みも整っていないため、表示が正しいかどうかを監視できないからです。安全性を理由にした判断ではありません。
Q4. 日本ではどんなゲノム編集食品が届出されていますか
2026年7月時点で15件です。トマトが6件、魚が6件(マダイ、トラフグ、ヒラメ、ティラピア)、トウモロコシ、ジャガイモ、バナナが各1件です。
Q5. 「遺伝子組換えでない」と書いてあれば、ゲノム編集でもないということですか
いいえ。外来遺伝子が残らないゲノム編集食品は、制度上は遺伝子組換え食品に該当しません。そのため「遺伝子組換えでない」と表示することが可能です。
Q6. 「ゲノム編集でない」と表示されている商品は信用できますか
その表示自体は禁止されていません。ただし根拠となる資料が必要とされています。種子や稚魚の証明を起点に、混ざらないよう管理したことを示す書類です。表示している事業者がその記録を持っているかどうかが判断の分かれ目になります。
Q7. 従来の品種改良との違いは何ですか
DNAを切る場所を狙って決められる点です。放射線や薬剤を使う従来の方法は、切れる場所が不特定でした。生じる変化そのものは、どちらも自然界で起こりうる範囲に収まるとされています。
Q8. 今後、表示は義務化されますか
決まっていません。消費者庁は、流通の実態や諸外国の制度についての情報収集を続けたうえで、表示の義務付けも視野に入れつつ見直しを検討するとしています。
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本記事はゲノム編集技術応用食品をめぐる日本の制度について、公的機関の資料をもとに整理した一般的な情報提供です。特定の食品の危険性を主張するものでも、安全性を保証するものでもありません。食物アレルギーのある方、持病のある方、妊娠中・授乳中の方は、食生活を大きく変える前に医師や管理栄養士など専門家にご相談ください。体調に気になる症状がある場合は医療機関を受診してください。
参考にした資料
- 消費者庁 食品表示企画課「ゲノム編集技術応用食品の表示の考え方について」(令和2年12月/食品表示基準Q&A ゲノム編集技術応用食品に関する事項を含む)
- 消費者庁「ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧」
- 消費者庁「ゲノム編集技術応用食品の表示に関する情報」
- 消費者庁「ゲノム編集技術応用食品等」(厚生労働省「ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領」令和元年9月19日 の解説を含む)
- 農林水産技術会議「ゲノム編集 新しい育種技術」
- 農林水産省「届出されたゲノム編集飼料及び飼料添加物一覧」
- サナテックライフサイエンス「ゲノム編集トマト青果物の販売開始のお知らせ」(2021年9月15日)
この記事を書いた人
- 子どもの食育に取り組み、塾では大人にも栄養の話をしています
- 自身のうつの経験から栄養に行き着き、ダイエットも実践中
- 医療系の国家資格は持っていません。だから出典を明示して書いています
免責:本記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を目的としたものではありません。食生活で気になることがある場合は、医師や管理栄養士など専門家にご相談ください。
最終更新: 2026年8月7日
更新履歴
- 2026-08-07 初版公開



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