「成長ホルモン不使用」の牛乳が売っていない理由。禁止ではなく、書けないからでした

「成長ホルモン不使用」の牛乳が売っていない理由を各国の制度から整理した図|rbST 牛成長ホルモン 牛乳の表示 栄養学

「牛乳には成長ホルモンが入っている」

そう聞いて、売り場で「成長ホルモン不使用」と書かれた牛乳を探したことがあります。見つかりませんでした。

理由を調べたら、意外なところに行き着きました。そう書けないことになっていました。

しかも、書けない理由が2つあります。ひとつは、そもそも検査で見分ける方法が存在しないこと。もうひとつは、無いものを「不使用」と書くと、それ自体が誤解を招く表示になるという制度上のルールです。

そして日本の状況も、思っていたのと違いました。禁止されたのではありません。申請が一度も出ていないだけです。

不安を煽る話でも、安心してくださいという話でもありません。どういう仕組みでこうなっているのかを、各国の一次資料で確かめた記録です。

牛乳の成長ホルモンrbSTについて確かめた9項目のチェックリスト。日本は禁止ではなく未申請、EUの禁止は製造と輸出が対象外、判断が割れた理由は牛の健康、天然と注射は分析で区別できない、日本では不使用と表示できない|rbST 牛成長ホルモン 牛乳

① 日本は「禁止した」のではありません。申請が一度も出ていない

まずここが違いました。

rbST(遺伝子組換え牛成長ホルモン)は、乳牛に注射すると乳量が増える動物用医薬品です。1980年代前半にアメリカで開発され、いまはアメリカ、ロシア、韓国など20か国以上で使われています。

日本では使われていません。ただしその理由は、危険だから禁止した、ではありません。農林水産省の農林水産政策研究所の報告によると、認可の申請が一度も出されたことがないため未認可のまま、というのが実態です。

制度の側から見ると、こうなります。動物用医薬品は農林水産大臣の承認を受けたものしか製造・販売・使用ができません。承認品目に入っていないものは、使う道がそもそもありません。

→ 「日本では禁止されている」と「日本では申請が出ていない」は、意味が違います。後で見るEUのように禁止の法令がある国と、同じ扱いにしないほうが正確です。

日本・EU・アメリカのrbSTの扱いの違い。日本は禁止の法令がなく申請自体が出ていない未承認、EUは1999年の理事会決定で法的に禁止、アメリカは1993年にFDAが承認して使用されている|rbST 日本 未承認

② EUは法律で禁止しました。ただし「製造」と「輸出用」は対象外です

EUには、はっきりした法令があります。1999年12月17日に採択された理事会決定1999/879/ECで、2000年1月1日から適用されています。

条文を読んで、意外だったのがここです。禁止しているのは域内で売ることと、乳牛に投与することだけでした。

第3条にこう書かれています。この禁止は、加盟国内での製造には影響しない。第三国への輸出を目的とした輸入にも影響しない。

つまり「EUは全面禁止」ではありません。作ることと、外に売るために持ち込むことは、明文で禁止の対象から外してあります。

→ 「あの国は禁止している」という話を聞いたら、何を禁止したのかまで見る。使用の禁止と、存在そのものの禁止は別ものです。

EU理事会決定1999/879/ECが禁止した範囲。域内での上市と乳牛への投与は禁止、加盟国内での製造と第三国への輸出を目的とした輸入は第3条で対象外|EU rbST 禁止 範囲

③ 各国で判断が割れた理由は、人の安全ではなく牛の健康でした

ここがいちばん意外でした。

アメリカは承認し、EUとカナダは認めなかった。この差は「人が飲んで大丈夫か」で割れたのだと思っていました。違いました。

カナダは1999年1月に不承認を決めています。カナダ保健省の現在の公開ページに、こう書かれています。人に健康リスクをもたらすものではないと判断されたが、動物の健康上の懸念があり、そのため販売が承認されることはなかった。

制度としては、承認の通知が出るまで合法的に販売することができません。カナダ議会図書館の資料にそう書かれています。審査で落ちたのではなく、通知が出ないまま終わったという形です。

EUも同じでした。1999年3月10日に動物衛生・動物福祉の科学委員会が出した報告が根拠で、挙がっている症状までカナダとほぼ一致しています

どちらも挙げている
乳房炎 臨床型の乳房炎が増える
蹄と肢の障害 跛行が増える
繁殖 繁殖成績が落ちる
注射部位 重い反応が出る

別々の国が、別々の委員会で、同じ4項目に行き着いています

→ 「海外では禁止されている=人体に危険だから」ではありませんでした。判断が割れた軸は、牛の側です。ここを取り違えると、話が全部ずれます。

カナダとEUが挙げた懸念が一致している。乳房炎の増加、蹄と肢の障害、繁殖成績の低下、注射部位の重い反応の4項目がどちらの資料にも並ぶ。人の食品安全ではなく動物福祉が判断の軸だった|rbST 動物福祉 乳房炎

④ FDAの「安全」は、「牛乳のIGF-1が増えない」という意味ではありません

アメリカのFDAは1993年11月5日に承認しています。店頭に出たのは1994年2月で、承認と発売のあいだに3か月ほど空いています。

安全とした根拠をたどって、通説とずれていたのがここでした。

よく「rbSTを使うと牛乳のIGF-1(細胞の増殖に関わるホルモン)が増える」と言われます。これはFDA自身の資料にも書かれています。処置した牛のほうが実際に高く、対照が1mLあたり3.16〜3.35ナノグラム、処置したほうが3.49〜5.31ナノグラムでした。

つまりFDAは「増えない」とは言っていません。言っているのは別のことです。

ひとつは、これが人の血液中にもともとあるIGF-1の100分の1から1000分の1という量であること。もうひとつは、口から入ったものは、そのままの形で体に取り込まれないということです。ラットに口から与える試験では、bSTもIGF-1も、最高用量まで何も起きませんでした。同じものを注射すると変化が出るのに、口からだと出ない。消化管でタンパク質として分解されてしまうからです。

同じ結論に、WHOとFAOの合同専門家会議も別の評価で到達しています。ほとんどの食事性タンパク質と同じく消化酵素で分解され、そのままの形では吸収されない。

日本小児内分泌学会も、成長ホルモンについて分子量が約22,000あるため粘膜からは吸収されないと説明しています。別の国の別の機関が、同じところに行き着いています。

→ 「牛乳のIGF-1が増える」は事実です。ただし増えたから体に入る、という話ではありません。2つを分けて理解するのが正確です。

なお、「成長ホルモン」でよく一緒に心配されるのが子どもの身長です。こちらは牛乳に入っているホルモンの話ではなく、体の中で出るほうの話で、別の記事として整理しました。→ 子どもは何時に寝ればいい? 年齢別の睡眠時間と、身長のために家でできること

rbSTを使った牛の乳のIGF-1は実際に増えるが、量は人の血液中にもともとある量の100分の1から1000分の1。さらに口から入ると消化酵素で分解され、そのままの形では吸収されない|rbST IGF-1 経口

⑤ 天然のものと注射したものを、分析で区別する方法がありません

ここが、この記事でいちばんの発見でした。

牛はもともと自分で成長ホルモンを作っています。だから牛乳には最初からbSTが入っています。注射したものは、それと同じ種類のものです。

FDAが1994年に出した文書に、こう書いてあります。牛乳中の天然由来のbSTと組換えbSTを、分析によって区別する方法は現在存在しない。処置した牛の乳と、していない牛の乳のあいだに、測定できる組成上の違いもない。

これは「調べていない」ではありません。調べても見分けられない、という話です。

→ 「検査で確かめてほしい」と思っていましたが、そういう性質のものではありませんでした。検査に期待する対象を間違えていた、というのが正直なところです。

牛はもともと自分でbSTを作っているため牛乳には最初から含まれる。注射したものは同じ種類なので、分析では天然由来と組換えを区別できず、組成上の違いも測定できない|bST 分析 区別できない

⑥ だからアメリカでも、確かめ方は検査ではなく「記録」です

⑤の続きです。見分けられないなら、アメリカで売られている「rbST不使用」表示は何を根拠にしているのか。

1994年2月10日のFDAの文書に、答えが書かれていました。裏づけに使うものが3つ挙がっています。記録、第三者による認証、そして物理的に分けること。分析は入っていません。取り締まりも州に委ねる、としています。

さらに表示そのものにも線が引かれていました。牛にはもともと天然のbSTがあるので、「bST不使用」は虚偽になる。「rbST不使用」も、組成に違いがあるかのように受け取られかねないので適切ではない。書くなら「rbSTを投与していない牛から」といった書き方にする、と示されています。

→ 「不使用」という表示は、検査結果ではなく管理記録に基づいたものです。日本でもアメリカでも、ここは同じ構造だと思っておくといいです。

⑦ 日本では「不使用」と書けません。理由が牛乳で名指しされています

日本の食品表示基準を確かめました。「ホルモン」「ソマトトロピン」「動物用医薬品」「不使用」という語は、全部で0件でした。rbSTの不使用表示を扱った規定は、そもそも存在しません。

ところが、構造がまったく同じ規定が「遺伝子組換え」について置かれていて、しかも例に出ているのが牛乳でした。

消費者庁の食品表示基準Q&Aに、こうあります。

「遺伝子組換えでない牛乳(卵)」という表示は、現時点では、遺伝子組換え技術を用いて作られた牛乳(卵)が流通しているような誤解を与えることから表示できません。

同じQ&Aでは、そもそも遺伝子組換えのものが存在しない農産物について「遺伝子組換え〇〇を使用していません」と書くことも、表示禁止事項にあたるため表示できないとしています。

理由は優良誤認です。存在しないものを「不使用」と書くと、それが特別に優れているように見えてしまう。

同じ考え方は農林水産省にもあります。「無農薬」という表示は禁止されていて、その理由が「一切の残留農薬を含まない農産物と受け取られ、優良誤認を招いていた」と説明されています。

そしてアメリカも、⑥のとおり「bST不使用は虚偽」と言っています。別々の国が、別々の制度で、同じ線を引いていました。

書けないもの 書けるもの
商品パッケージでの個別の不使用訴求(「ホルモン不使用牛乳」) カテゴリ全体の事実説明(「日本ではrbSTは承認されていない」)

「成長ホルモン不使用」と書かれた牛乳を探しても見つからないのは、当然でした。探すものが最初から存在しません。逆に、そう書いてある商品を見かけたら、そこが引っかかるポイントになります。

日本と米国が同じ線を引いている。日本は食品表示基準Q&Aで遺伝子組換えでない牛乳という表示はできないとし、米国FDAはbST不使用は虚偽としている。理由はどちらも優良誤認|牛乳 不使用表示 優良誤認

⑧ 輸入チーズは検査の網に入っています。ただし公表されるのは区分までです

日本で流通する乳製品には輸入品もあります。輸入時に何を見ているのかを、厚生労働省のモニタリング計画で確かめました。

食品群は9つに分かれていて、「牛乳」「乳製品」という区分はありません。ナチュラルチーズとアイスクリームは「畜産加工食品」に例示されています。

その畜産加工食品の検査項目に、こうあります。

検査項目 中身の例 年間の計画件数
抗菌性物質等 抗生物質、合成抗菌剤、ホルモン剤 1,876件
残留農薬 1,487件
添加物 1,157件
病原微生物 3,703件

「ホルモン剤」は検査項目の例に明記されています。制度としては網の中です。

ただし、計画本体と別表8本を全部確かめましたが、「ソマトトロピン」という語は1件も出てきません。公表されているのは「抗菌性物質等」という区分までで、個別の物質名までは出ていません。

だから「検査されていない」とは言えません。言えるのは、公表資料からは分からないということだけです。そして⑤のとおり、そもそも検査で見分けられる物質ではありません。

→ ここは分からないことを分からないまま置いておくところです。「検査していないから危ない」でも「検査しているから安心」でもありません。

輸入食品モニタリング計画には牛乳・乳製品という区分がなく、チーズとアイスクリームは畜産加工食品に入る。抗菌性物質等の例にホルモン剤はあるが、ソマトトロピンの語は計画のどこにもない|輸入乳製品 モニタリング 検査

⑨ 国際的な残留基準は、いまも決まっていません

最後にもうひとつ。ここは2つの国際機関の結論が食い違ったままになっています。

WHOとFAOの合同専門家会議は、rbSTについて一日摂取許容量も残留基準も「定める必要なし」と評価し、1998年の会合でその結論を再確認しています。適正に使う限り、食事由来で人の健康リスクにはならないという結論です。

ところが、国際的な食品規格を決めるコーデックス委員会は、残留基準を採択できませんでした。手続きの途中で止まったままです。

2012年の総会で再評価が求められていて、その理由が4つ並んでいます。乳房炎の治療のために抗菌剤の使用が増える可能性、処置した牛の乳のIGF-1が上がる可能性、牛の特定のウイルスの発現への影響、そして乳児や幼児が処置した牛の乳を摂った場合の健康リスク

大事なのはここです。これらは「懸念として挙げられた」ものであって、影響が確かめられたという意味ではありません。

→ 科学的な評価では「基準は要らない」となり、それでも国際基準は採択されなかった。基準というものが、科学だけで決まるわけではないことがよく分かる例だと思います。

今日からできること

調べる前と後で、見るところが変わりました。

やること なぜ
「成長ホルモン不使用」の牛乳を探すのをやめる 表示できないことになっている。探すものが存在しない
そう書いてある商品があったら、そこを疑う 日本の制度では書けない表示
「海外で禁止」は、何を禁止したのか見る EUも製造と輸出は対象外。全面禁止ではない
「禁止された」と「申請が出ていない」を分ける 日本は後者。危険と判断されたわけではない
「IGF-1が増える」で止めない 増えるのは事実。口から入って吸収されるかは別の話
牛乳を飲むかどうかは、この話とは別に決める rbSTの話は、牛乳が体にいいか悪いかの話ではない

念のため

  • rbSTが人の健康に影響するかどうかは、確かめられていません。懸念として挙がっている段階です
  • 日本で「未承認」の根拠として見つかったのは研究機関の報告で、規制当局の告示ではありません
  • 牛乳でおなかの調子が悪くなる方、乳のアレルギーがある方は、医師や管理栄養士へ

てびきの場合

私は乳糖不耐なので、そもそも牛乳をあまり飲みません。それでも、子どもに何を出すかを考えるとこの話は避けて通れませんでした。

いちばん変わったのは、「検査すれば分かる」と思い込んでいたところです。天然のものと注射したものが同じで、分析では区別できない。これを知らないまま「なぜ検査しないんだ」と思っていました。期待する先を間違えていたわけです。

もうひとつは表示です。売り場で「不使用」を探していましたが、書けないことになっていると知って、探し方そのものが間違っていたと分かりました。同じことが「無農薬」でも起きていて、こちらは表示が禁止されています。

無いものを「不使用」と書くと、それが優良誤認になる。この線を、日本とアメリカが別々の制度で引いていたのが、いちばんの収穫でした。

よくある質問

Q1. 日本の牛乳に成長ホルモンは使われていますか

rbSTは日本では承認されていないため、国産の生乳の生産には使えません。動物用医薬品は農林水産大臣の承認を受けたものしか使えない仕組みです。ただし禁止されたのではなく、申請が一度も出されていないというのが実態です。

Q2. 「成長ホルモン不使用」の牛乳はどこで買えますか

日本では、そう表示することができません。存在しないものを「不使用」と書くと優良誤認にあたるためです。消費者庁のQ&Aでは「遺伝子組換えでない牛乳」という表示を例に、同じ理由で表示できないと示されています。

Q3. 輸入の乳製品は大丈夫ですか

輸入されるナチュラルチーズなどは「畜産加工食品」として、抗菌性物質等の検査対象になっています。その例にホルモン剤も挙がっています。ただし公表されているのは区分までで、個別の物質までは分かりません。

Q4. 検査すればrbSTを使ったかどうか分かりますか

分かりません。牛はもともと自分でbSTを作っていて、注射するものはそれと同じ種類です。FDAは、牛乳中の天然由来のものと組換えのものを分析で区別する方法は存在しない、と明記しています。

Q5. アメリカの「rbST不使用」表示は何を根拠にしていますか

分析ではなく、記録、第三者による認証、物理的に分けることで裏づけています。FDA自身が、そのように示しています。

Q6. 牛乳のIGF-1が増えるというのは本当ですか

本当です。FDAの資料でも、処置した牛の乳のほうが高くなっています。ただし人の血液中にもともとあるIGF-1の100分の1から1000分の1という量で、さらに口から入ると消化酵素で分解されます。増えることと、体に入って働くことは別の話です。

Q7. EUが禁止しているなら危険なのではないですか

EUが挙げた理由は人の食品安全ではなく、乳牛の健康です。乳房炎、蹄と肢の障害、繁殖成績、注射部位の反応が挙げられています。カナダも同じで、人には健康リスクをもたらさないと判断したうえで、動物の健康を理由に承認しませんでした。

Q8. 国際的な安全基準はどうなっていますか

WHOとFAOの合同専門家会議は、一日摂取許容量も残留基準も定める必要がないと評価しています。一方でコーデックス委員会は残留基準を採択できておらず、手続きが途中で止まったままです。

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ご利用にあたっての注意

本記事は牛成長ホルモン(rbST)をめぐる各国の制度について、公的機関の資料をもとに整理した一般的な情報提供です。特定の食品の危険性を主張するものでも、安全性を保証するものでもありません。乳製品でおなかの調子が悪くなる方、乳のアレルギーがある方、持病のある方、妊娠中・授乳中の方は、食生活を大きく変える前に医師や管理栄養士など専門家にご相談ください。体調に気になる症状がある場合は医療機関を受診してください。

参考にした資料

この記事を書いた人

てびき

てびき
学習塾を営む二児の親/健康・栄養の情報を発信
    • 子どもの食育に取り組み、塾では大人にも栄養の話をしています
    • 自身のうつの経験から栄養に行き着き、ダイエットも実践中
    • 医療系の国家資格は持っていません。だから出典を明示して書いています

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免責:本記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を目的としたものではありません。食生活で気になることがある場合は、医師や管理栄養士など専門家にご相談ください。

最終更新: 2026年8月7日

更新履歴

    • 2026-08-07 初版公開

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